ソーシャルVRにNFTは不要なのか? バーチャル美少女ねむと考える、メタバースの“誤解”

メタバース時代の日本の未来と課題、そしてメタバース原住民の実情

――直近では「VRChat」が大幅なアップデートを行い、アバター表現にかなりの改革が起きつつある印象があります。ねむさんは最近のソーシャルVRについて、特に執筆の最中から変わったなと思うことってありますか?

ねむ:あまりないですね。「VRChat」は「Phys Bone」で多少は変わると思いますけど、重要なのはそういう些細なところではなくて。本質的なところって設計思想だと思うんですよね。「VRChat」だったら「VRM?そんなの知らないよ。Unityで全部やりゃいいじゃん」みたいな感じじゃないですか。今回のアップデートって、その方向性がもう一段進んだだけなんですよね。

――言いたいことがよくわかりました。たしかにプラットフォームとしてのカラーはまったく変わってないですね。

ねむ:一方で、「cluster」はこの半年で大きく変化したと思います。以前はもっぱらイベント用のプラットフォームだったけど、いまは住んでる人が前よりも増えたんですよ。なので、本の中での書き方には若干悩んだんですよね。まだ住人もそこまで多くはないので、「今後に期待!」というような書き方で落ち着きました。

――「cluster」はアバターの制限も解放や、ワールドクラフト機能の追加あたりが大きいでしょうか?

ねむ:私はそれより、フレンドリストができたことと、ワールドの入室権限ができたところが大きいかなと思いました。いままでそれがなかったので、知り合いとこっそりおしゃべりができなかったんですよ。そんなのほかのソーシャルVRからしたら当たり前じゃないですか。

――たしかに。イベントプラットフォームとしては不要な機能でしたからね。

ねむ:そのあたりは加藤さん(クラスター株式会社 代表取締役CEO・加藤直人氏)の意思を感じましたね。いままで「VRChat」とかに対して一歩引いていた感じがあったんですけど、あのアップデートで「うちはメタバースをやるんだ」という意気込みを感じたんですよ。今後「cluster」に関しては評価が変わると思います。

――「バーチャルキャスト」もアップデートが続いていますし、「DMM Connect Chat」という新顔も登場していて、国産ソーシャルVRも盛り上がりそうですね。

ねむ:というか、国産ソーシャルVRって悪くないんですよね。「バーチャルキャスト」もシステムとしてはめちゃくちゃよくできていて。ちょっとテッキーなところがあるので、住むにはまだちょっとという感じですけど、配信ではいまだに一番使いやすいソーシャルVRであるのは間違いないです。メタバースは日本にとってすごいチャンスだと思ってるんですよ。VRMを生み出したのも日本ですし。

 ただ、いざ経済産業省が「よし、メタバースやるぞ」となっても、「NFTが〜」と言い出してガッカリしてしまいました。そんなのに手を出さなくても、日本にはもう芽生えているものがあるんだから、そこに投資してくれるだけでいいのに。そのへんの温度差は残念ながらあるなと。

――NFTもまた注目されている技術なので、まだ致し方ないところはあるかと思います。投機目的からか不正確な持ち上げ方をされがちですが。

ねむ:NFT自体は別にそこまで発展性のある技術ではないんですよ。「ブロックチェーンで作ったトークンにURLなどを書き込んで個人間取引できる」というだけなので、世間で言われているようなアートの所有権を証明する機能や違法コピーを防ぐ機能も一切存在しません。実際の便利さは、いまイメージされている100分の3くらいかなと。バブルは近いうちに弾けると思います。

――話は変わりますが、メタバースエヴァンジェリストとして活動する中で、これまでVRもVTuberもメタバースも知らない人と接し、教える機会も増えたと思います。体感として、そうした人たちの理解度はどう思われますか? また、直近で変化は感じますか?

ねむ:以前よりだいぶマシになったと思います。昨年末はひどかったですからね。「NFT=メタバース」みたいな感じで。メディアからインタビューを受けた人は多分同じような感じだと思いますが、ここ最近はだいぶ落ち着いてきています。「NFTの話も……したほうがいいですか……?」と恐る恐る聞くと、「いや、NFTとかいいんでメタバースの恋愛の話とかお願いします!」と言われ、安心するという場面も増えています。

 とはいえゼロになったわけではなくて、「やっぱりNFTの話もしてほしいんですよ」という話もありますね。でも、これらは本来全く別の技術なので「合わせて語る意味ないよ」と言っています。むしろ視聴者がNFTとメタバースを関連するものと誤解してしまうリスクの方がはるかに大きい。NHKの「令和ネット論」でもサブタイトルが「NFT&メタバース」だったんですが、「ぶっちゃけ『NFT』取ったほうがいいですよ?」って言っちゃったんですよね。

――そこまで言っちゃったんですか!

ねむ:さすがに取るのは無理だったみたいですけど……収録の時にプロデューサーの人に「私、NFTのときは黙ってますね、空気悪くなると思うんで」と言ったところ、「いや、ここは議論してもらう場所なので、ねむさん的に懸念があればどんどん言ってほしい。空気とか気にしなくていいので」と言ってもらえたので、いま(インタビューで)したような話はガンガンしてきました。カットされる可能性はありますけど、フラットに取り扱ってくれるかなと。

(編注:結果的に、ねむの発言したNFTのリスクや誤解についても地上波で放送された)

――それはいい流れかもしれません。議論も許容してもらえる空気になってきた、ということですものね。

ねむ:とはいえ、NHKはやはり「一般目線」だと思うので、世間の認識は「NFTもメタバースもわからない」という状態だと思いますし、NHKがそういう文脈で取り上げるのもある程度は仕方ないかなと。少なくとも、無理やりつなげて取り上げられることもなくなってきたので、だったら私はそういう文脈の中で「メタバースのおもしろさ」を広められるのであれば、それでいいかなって思います。Twitterでも「NFT! メタバース!」みたいな人もいますが、そういう人でもとりあえずメタバースにつれていけばいいんじゃないかなと思いますけどね!

【後編『人類は「イノシシの時代」の先へ進む覚悟はあるか メタバースを通じて会得した“魂で会話する”こと』へ続く】

関連記事