『Weekly Virtual News』(2022年3月28日号)
「電力需給ひっ迫警報」の影響大だったVTuberとメタバース 春に向けた準備運動の一週間に
春分の日より明けた3月22日は、史上初となる「電力需給ひっ迫警報」が東日本に発令された。異例ともいえる節電の呼びかけを前に、電力を使わざるを得ない職業の人は右往左往したはずだ。活動の軸をライブ配信に据えているVTuberも例外ではなく、この日は各所で「配信の見合わせ」が相次いだ。毎日のように配信をしているVTuberですら、この日ばかりは配信をストップするという状況は、正しく緊急事態と言えただろう。
VTuberはもちろん、メタバースも(特にVRであるなら)電力を必要とする。今回は節電の呼びかけだったが、これが停電となれば、どちらも全く機能し得ない。いま広がりつつあるバーチャルの世界は、「電気」によって成り立つという、当たり前ではあるが忘れがちなことを思い出させてくれた一幕だ。
半導体大手のクアルコムは、3月21日に「Snapdragon Metaverse Fund」の設立を発表した。メタバースの基盤技術やコンテンツエコシステムを開発するスタートアップへ、最大1億ドルもの投資を行うために設立されたファンドだ。同社のCEO・Cristiano Amon氏は最近、「クアルコムはメタバースへのチケットだ」というフレーズを用いている。実際に、「Meta Quest 2」に組み込まれたSoCはクアルコム製だ。
半導体というメタバースの“中枢”を握るクアルコムは、先日には中国のByteDance社とも提携を発表。さらにスクウェア・エニックスとの協業も発表しており、メタバースに対し多方面からプッシュを強めている。スタートアップへの投資も惜しまない同社は、「電気」に並ぶメタバースの基盤を構築する企業となり得るだろうか。
写真共有アプリ「Snapchat」を手掛けるSnap Inc.は、直近ではAR企業へと変じつつある。同社が発売したスマートグラス「Spectacles」にはリアルタイムAR合成機能が搭載され、AR関連企業の買収も相次いで実施している。そんな中、3月23日に脳波コントロールデバイスを開発しているスタートアップ・NextMindの買収を発表した。頭皮に接触した電極から脳波を読み取る「NextMind」というデバイスを開発した同社が、AR企業を目指すSnapに買収されるという流れはなかなかに興味深い。コントローラーに依らないARデバイスの操作体系として、「思念操作」が実装される日がくるだろうか。
「一般社団法人Metaverse Japan」に続き、先週には「一般社団法人メタバース推進協議会」の設立が発表された。代表理事は養老孟司氏。そのほか理事層には政財界に近しい面々が連なっており、特別顧問として隈研吾氏と廣瀬通孝氏が籍を置く。バーチャルリアリティ研究の先駆者ともいえる廣瀬氏がいるのは興味深い一方で、その面々の多くはメタバースという概念とは距離を感じる、という印象も受ける。「日本国内のメタバースに関わる新たな文化圏、経済圏の在り方を検討する」という触れ込みだが、「重鎮」がどのようにこの領域に携わっていくかは注視したい。
ひるがえってVTuber業界を見ると、ホロライブインドネシアの好調が印象的だった。3月24日に、3期生3名がデビューを果たした。その翌日には、2期生のクレイジー・オリーが、ホロライブインドネシアでは2人目となるチャンネル登録者数100万人を達成した。1人目の100万人登録達成者であるムーナ・ホシノヴァと彼女が飛び抜けている形だが、1期生から2期生のほかメンバーもチャンネル登録数は40万〜60万を確保している。イベントにて1期生の3Dモデルも解禁され、インドネシア屈指のグループとして確立していると言ってもよいだろう。
その一方で、元祖インドネシアVTuberともいえるMaya Putriは、意味深な動画を経て久しぶりに姿を見せた。動画のタイトルは「Akhirnya kita bisa bertemu lagi」。自動英訳をかけてみると「Finally we can meet again」と出てきた。「やっとまた会えたね」……というようなニュアンスだろうか。黎明期のインドネシアVTuberである彼女が、これからなにを始めようとするのだろうか。