意外とわかっていないテクノロジー用語解説
日々使っているものの、言葉で説明できない……『インターネット』って結局何?
テクノロジーの世界で使われる言葉は日々変化するもの。近頃よく聞くようになった言葉や、すでに浸透しているけれど、意外とわかっていなかったりする言葉が、実はたくさんある。
本連載はこうした用語の解説記事だ。第10回は「インターネット」について。もはや日常生活でも仕事でも関わることがない日はないインターネットだが、その定義や全体像について把握している人は少ないだろう。いまなお進化と拡大を続けるインターネットの裏側について紹介しよう。
・インターネット=ネットワークのネットワーク
総務省の「国民のための情報セキュリティサイト」によると、インターネットの定義は「家や会社、学校などの単位ごとに作られた一つひとつのネットワークが、さらに外のネットワークともつながるようにした仕組み」だという。ただし、これは「広義のインターネット(internet)」であり、現在読者のみなさんがこうしてコンテンツを見ているのは「狭義のインターネット(The Internet)」を通したものだ。
「狭義のインターネット」では、ネットワークの上でデータをやり取りする「プロトコル(手続き)」にインターネットプロトコルスイート、いわゆるTCP/IPを使っている。これがたとえばAppleTalkであるとか、IPX/SPXといったようなネットワークプロトコルを使ったネットワークは、厳密に言えばインターネットには含まれない(もっと厳密に言えば、ゲートウェイを使えば通信はできる)。もっとも、現在は小規模なネットワークでもほとんどがTCP/IPを使っているので、あまり気にしなくてもよくなった。これは「インターネットがあまりに便利なので、すべてのネットワーク機器がインターネット標準に合わせた」と言ってもいいだろう。
ちなみに、昔のパソコン用OSではTCP/IPを扱うことができなかった(そればかりかLANを組むことすらできないものも多かった)。TCP/IPが標準でOSに組み込まれるようになるのは、WindowsもMacも、1995年前後からだ。
さて、TCP/IPでは各コンピュータのネットワークインターフェースに、一意なIPアドレスを割り当てることで識別している。IPアドレスは「インターネット上の住所」と呼ばれる数値で、広く使われているIP第4版(IPv4)なら32bit(2の32乗)=42億9496万7296個のアドレスを持っている。昔はこれで足りたのだが、現在はスマートフォンやIoTなど、IPアドレスを必要とするコンピュータの数が膨れ上がり、まったく足りなくなってしまった。そこで現在は第6版(IPv6)に置き換わりつつある。こちらではIPを128bit=3.402823669e38(3.4×10^38)、漢数字で言うと340澗(万億兆京垓𥝱穣溝の次)個という超膨大な数であり、IoTがいくら増えても大丈夫なようになっている。
IPアドレスによって個別のコンピュータは見分けがつくようになったが、このままでは単に住所が割り当てられただけ。それに、IPアドレスはコンピュータにとってはわかりやすくても、人間には数字の羅列でしかなく、わかりにくい。どうやったらいつもWebブラウザでアクセスしているようにURLなどを使って相手のコンピュータにたどり着けるのだろうか。これを実現するのが「ドメイン名」と「ネームサーバー」という仕組みだ。
ドメインとは「範囲」や「領域」といった意味の英単語で、ネットワークを識別するための概念だ。そこに付けられた名前が「ドメイン名」となる。ドメイン名は住所のように階層構造になっており、たとえば「www.realsound.jp」であれば、「JP」ドメインの「realsound」というドメインの「www」という名前のコンピュータ、という意味になる。
ちなみに「URL」もドメイン名に似ているが、ドメイン名に加えてプロトコルの指定や、ディレクトリ名やファイル名も含んでいるのがドメイン名との違いになる。
こうしたドメイン名を管理しているのが「ネームサーバー」だ。ネームサーバーは、自分のネットワーク内のコンピュータに割り当てられたIPアドレスと、それぞれのコンピュータのドメイン名のリストを保持している。あるコンピュータがほかのコンピュータに接続しようとするとき、まず「ルートサーバー」に問い合わせる。ルートサーバーはトップレベルドメインを見て、それぞれのドメインを管理するネームサーバーのIPアドレスを返す。次にトップレベルドメインを管理するネームサーバーに問い合わせ、目的のドメインのネームサーバーのIPアドレスを返す。そして目的のドメインのネームサーバーは、自分が持っているIPアドレスとドメイン名のリストを突き合わせ、そこに載っていれば直接IPアドレスを返す。こうして不明なドメイン名でも目的のIPアドレスに到達できるようになるわけだ。
・プロバイダー同士のつながりはどうなっている?
さて、インターネットは「ネットワークのネットワーク」であることは紹介した通りだが、単にどこかのネットワークにぶら下がっているだけのネットワークと、ネットワークサービスを提供するISP(インターネットサービスプロバイダー)では扱いが違う。ISPのように独自の運用ポリシーでインターネットに接続される組織は「自立システム」(Autonomous System:AS)と呼ばれ、個別に番号が振られる。インターネットにおける最もインターネットらしい領域、いわゆるバックボーンと呼ばれる部分は、このAS同士の接続で構成されているのだ。最も基本的な、一対一の接続を「ピアリング」といい、ピアリングは物理的に近いAS同士で行われることが多い。
AS間の経路情報はBDPというプロトコルでやり取りされている。あるネットワークがほかのネットワークに接続する際に、経路が1つしかないことを「シングルホーム」といい、この場合AS番号は必要ない。経路が複数あり(マルチホーム)、BDPを使って経路制御する必要がある場合、初めてAS番号を取得して運用する必要が出てくるのだ。つまり、社内ネットワークを常時接続するとか、単にドメインを取得してウェブサーバーなどを運用するだけであればAS番号は必要ない。日本ではおよそ900前後のAS番号を振られたネットワークが存在しているが、ほとんどがISPか、学校などの研究機関だ。
ピアリングでは直接接続されている相手との接続しか考えられていないため、間接的に接続されたASに到達するためには、他のASの接続経路を借りることになる。こうした経路のレンタル接続を「トランジット」と呼び、使用する帯域に応じた従量制の料金が課せられるのが通常だ(ピアリングでは相互に費用を折半することが多い)。インターネットプロバイダー同士でも、大手ISPがピア接続された小規模なISPにトランジット接続を提供しているというケースは多い。
また、トランジットのコストを下げるために、近在のASをまとめて接続し、相互の接続を提供する「インターネットエクスチェンジ」(IX)という仕組みもある。いわばAS同士のハブのようなものと思えばいいだろう。IXがあるおかげで、AS同士の接続は一体多の複雑な網目模様になっている。こうして網目状になっているおかげで、どこかの接続が切れたり遅くなったりしている場合でも迂回して接続性が保たれ、インターネットが簡単にダウンせずに済んでいるのだ。
大きなASはIXに接続すると同時に、より高速な経路を実現するため、世界中のASとピアリングするための交渉を行っている。ASの交渉担当者はSNSなどを通じて連絡を取り合ったり、世界中で開催されているピアリングフォーラムに参加して人脈を作り、情報交換したりしている。最先端のインターネットを守っているのは、案外こうしたアナログな交流の賜物なのだ。