“いぶし銀”のラバーガールがTikTokで再ブレイク? 2人が生み出す「日常の中に訪れる異質感」

 いま、TikTokで熱い芸人がいる。芸歴21年目、プロダクション人力舎所属のラバーガールだ。かつて『爆笑オンエアバトル』や『エンタの神様』に出演し、『キングオブコント』にも2010年と2014年の二度決勝に進出、そのシュールな世界観のコントで人気を博しているコンビだ。

 そんな彼らが2021年11月に開設したTikTokアカウントは開始3ヶ月余りでフォロワー数30万人を突破。アップされているショートネタ動画も軒並み高再生数を記録している。その面白さは『ゴッドタン』『あちこちオードリー』などで知られるテレビプロデューサーの佐久間宣行氏も自身のラジオ『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』にて「ラバーガールのTikTokはとにかく掴みが速い」と絶賛しているほど。

 ゴリゴリのオンバト世代の筆者はこの現状に興奮と驚きを隠すことができない。なぜいま再びラバーガールが注目されているのか考えたい。

 ラバーガールの魅力は「日常の中に訪れる異質感」だと筆者は思っている。大水洋介の演じる「当たり前のように発した言葉が結果変な人」と、飛永翼の演じる「突然出会った変な人間に振り回される普通の人」という構図がたまらなく面白い。(一部逆のパターンもあるが)なんと言っても二人の「表情」の素晴らしさはずば抜けていて、どのネタを見ても「わざとらしさ」がひとつもない。内容も「電気屋にテレビを買いに来る」「子ども服店に服を買いに来る」「サラリーマンが寿司を食べに来る」など、どこまでもナチュラルに現実の中で起きる出来事としてネタが成立している。

ラバーガール・・・「怖い話」/『ラバーガールベストネタライブツアー 爆笑オンステージ』より

 たとえば、YouTubeでも公開されているラバーガールの代表的なネタ「怖い話」はその最たるもので、恐怖番組のディレクター飛永の元に大水が怖い話を持ち込みに来るというネタなのだが、奇抜な服装や派手な動きで笑わせるわけではなく、大水が話す意味の分からない話に対して飛永があくまで会話の延長線上で疑問を呈したり、否定をしたりする。ネタによっては飛永がひとつもまともにツッコまず終わることすらあり、そこに「俺のワードセンスを見せつけてやろう」という我はいっさい感じられない。

将棋教室【ラバーガールコント】

 コント「将棋教室」でも、将棋の先生(飛永)と将棋初心者(大水)が将棋を指していくのだが、あくまで「普通の将棋の先生」と「将棋のことを1ミリも知らない人間」のスタンスを崩さず、その範囲内で出来るボケをしているのところに圧倒的なスマートさがある。オチも「もういいよ!」や「いい加減にしろ!」ではなく「ですよねぇ」で終わり、その先にも日常が続いていくことを予感させる。そう、2人のコントの世界の中では、その登場人物がたしかに「生きていた」。良い意味で「起伏」や「起承転結」がなく、どこまでも純粋な会話劇として成り立っているのだ。伏線回収や盛り上がりが当たり前とされている昨今の賞レース的なお笑い界においてこの「ユルさ」は唯一無二のものがある。だからこそ見ている側からしても何のストレスもなく2人の作り出す世界に入り込むことができるのかもしれない。この感覚はラバーガールのコントでしか味わうことができない。

 TikTokにおいてもその異質感は存分に発揮されていた。飛永が道を歩いていると変な人間(大水)に話しかけられるというシチュエーションのものがほとんどなのだが、どれを見ても大水が「そういうこと言いそうな人」にしか見えないのだ。普通の人間が無理して変な人間のフリをしているのではなく、ナチュラルに「変な人間」に見えてしまう。そしてそれを見た100万人が感じる感情を奇をてらうことなく真っ直ぐに言葉にする飛永のツッコミ。ネタ、演技を超えたものがそこにはあった。そして前述した佐久間宣行氏の言う「掴みの速さ」によって一度観ると忘れることができない中毒性を生み出しているのだと思った。

 たびたびネタ番組などでは「いぶし銀」と呼ばれているラバーガールだが、そんなレッテルを飛び越え「女子中高生が選ぶ好きな芸人」として紹介される日も近いのかもしれない。

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