2022.02.06 12:00

VSinger・ユプシロンが語る“性別、年齢、正解の概念を持たない存在”としての矜持　「それでも吐き出したい感情のために曲を書いている」

文・取材＝ヒガキユウカ

パートナー・sachiとの共同作業

――2月4日にリリースされた新曲「フォージェリィ」は、これまでの良さはもちろんありつつも、よりキャッチーなサビに激情的なメッセージが心に残る曲だなと感じました。

ユプシロン：歌詞は、この1年半活動してきて、見てきたものや感じたことをストレートにぶつけた歌詞になっています。「これは本当の自分じゃないな」って思いながらやってしまうことって、SNS上ではよくあることだと思っていて。でも認めてほしくてそういうことやってしまうよね、という曲です。メロディは、ユプシロンらしいねと言われるのですが、BメロはMIDIでメロディを打ち込むのが大変なくらい細かくて、ここまで細かいメロディは初めてつくりました。

【MV】フォージェリィ // ユプシロン Original song

――制作はどのように進んだのでしょう？

ユプシロン：いままでの曲、つくり方が全部バラバラなんですよね。今作はまず、疾走感のあるリード曲らしい曲をつくろうというテーマを設けて、サビのコード進行を決めました。sachiさんにサビのオケをつくってもらって、そこに僕がサビメロを乗せて、AメロとBメロは僕が先につくって、そこにオケをつけてもらったという流れです。なのでパートとしてはサビが最初にできて、そこにどんどん肉付けしていったような感じですね。

　sachiさんとは、すべてLINEでやりとりしています。sachiさんも僕と同じで邦ロックが好きなんですけど、好き嫌いせずいろんな音楽を聴く人なので、引き出しが多いんですよ。作ったデモ音源と一緒にリファレンスも送って、「こういうイメージです」「ここでダッダ！って入ります」みたいな感じで伝えると、すぐ打ち返してくれるんです。でも、曲をつくっていないときは全く何の連絡もとらず、なんか不思議な関係ですね。

――信頼し合えるビジネスパートナーのような。

ユプシロン：そうなったらいいなと思いますね。早く売れないと……！

――デビュー以降、ハイペースの活動を安定して維持されている印象です。改めて、いまのユプシロンさんにとって、何が音楽活動のエネルギーになっているんでしょうか？

ユプシロン：自分の頭の中を外に出すことが快感になっていて、いまはその快感にとりつかれています。作品を出すこと自体が目標になってるというか。

　でも再生回数が全然伸びなくてもいいのかと言われると、そうじゃなくて。大前提はつくって出すことなんですけど、そこに反応をもらえるから、モチベーションを維持できているのかなとは思います。一方で「絶対どこかでバズるだろう」という、根拠のない自信もあります。

――「売れたい」が目標になっていると、その手前のどこかで多分、息切れしちゃうこともありそうですしね。ユプシロンさんは作品を出すこと自体が嬉しいことになっていて、そのために頑張り続けられる、と。

ユプシロン：1位が作品を出すことで、2位ぐらいに「売れたい」がある感じです（笑）。売れないと嫌だけど、自分にとって一番大事なことはアウトプットすることって感じかなあ……難しいですね。

　完成したときの高揚感が鮮烈なので、そういう意味では、YouTubeに投稿してみんなに聴いてもらう前の段階で、1つのピークが来ているかもしれません。マスタリングが上がってきたときが、一番自分の中でアドレナリンが出ていますね。

――バーチャルシンガーとして、この先挑戦したいことはありますか？

ユプシロン：せっかくクラウドファンディングをして、皆さんのおかげで3D化できたので、一番は3Dの体でライブをやりたいですね。デビュー前に見た、ヒメヒナさんのライブが心に残っているんです。芸術とテクノロジーが共存するような新しい世界に触れて、すごくワクワクさせてもらいました。だから自分もライブをやりたいですし、有観客ライブは憧れます。

　ただ、個人活動だと3Dライブはかなり難しいと思っていて、事務所に所属したい気持ちはあります。個人の方が動きやすい場面もあるんですけど、運営やお金の面、技術の面、そうしたときにはやっぱり大人がいてほしいなと。

――ありがとうございます。最後に、2022年はどんな年にしたいですか？

ユプシロン：自分の中では第2章がスタートする年だなと思っています。今までの活動の良いところは継続しつつ、より広い世界に羽ばたいていくための第2章として、音楽制作もバーチャル活動もしていけたらなと思ってます。世の中にはまだVTuberやバーチャルシンガーに抵抗のある人もいると思うので、そこの垣根を払って、いろんな人に音楽を届けられる存在になりたいですね。