サプライズリリースからのトレンド化。『遊戯王 マスターデュエル』ヒットの要因と“唯一の課題”
1月19日、『遊戯王 マスターデュエル』が配信開始となった。
アナログTCGの王道として、発売から20年以上が経過してもなお高い人気を誇る『遊戯王』のカードゲームシリーズ。そのデジタル化作品である同タイトルは開発発表時から、ファンの間で注目を集めてきた。
新規プレイヤー・休眠プレイヤーまで巻き込み、トレンド化している『遊戯王 マスターデュエル』のヒットの要因と、今後に向けての課題を考えていく。
満を持して登場した“公式発・完全版”の遊戯王デジタルTCG
『遊戯王 マスターデュエル』(以下、『マスターデュエル』)は、コナミ開発・運営の新作デジタルTCGだ。おなじくコナミが製造・販売を手掛けるアナログTCG『遊戯王OCG デュエルモンスターズ』と、その海外版『YU-GI-OH! TCG』を網羅したタイトルで、2020年12月に開発中であることが発表されていた。
これまで同シリーズからは、モバイル/PC向けタイトル『遊戯王 デュエルリンクス』・家庭様プラットフォーム/PC向けタイトル『遊戯王デュエルモンスターズ レガシー・オブ・ザ・デュエリスト:リンク・エボリューション』がデジタルTCGとしてリリースされてきたが、カードプールの違い、特有のルールの存在などから、シリーズを完全再現したタイトルとは言えず、非公式のシミュレータがプレイヤーの間で浸透していた実態があった。『マスターデュエル』は、ようやくリリースされる“公式発・完全版”だ。
2021年7月には、新たな情報を収めたトレーラーが公開され、演出のクオリティの高さ、対応プラットフォームの幅広さ(PS4/PS5/Nintendo Switch/Xbox One/Xbox Series X/S/Steam/iOS/Android)などに、ファンの期待が高まっていた。当初「今冬」とされていたローンチだったが、その後、具体的な日付の発表がないまま、突如リリースされると、1月22日には、Steam版の同時接続プレイヤー数が24万人を突破。界隈は大きな盛り上がりを見せている現状だ。
ファン・見込みプレイヤーの想定を大きく超える出来がトレンド化の要因に
いったいなぜ『マスターデュエル』は、フリークたちにこれほど受け入れられているのだろうか。その理由の根幹には、「シリーズが王道のTCGとして広く認知されており、機会があるなら遊んでみたいと考えるプレイヤーが多かったこと」があるが、度外視できないのは、同タイトルが必要十分なクオリティでリリースされたという点だ。
4Kで表現される映像の美しさ、凝った演出といった視覚的な魅力のほか、初心者でも気軽にプレイできるような工夫の施されたシステム、オンラインでのランクデュエルの実装、アナログ版と同様のルール・カードプールの採用、ユーザーフレンドリーなインターフェースなど、ファン・見込みプレイヤーに求められていた要素の多くが、『マスターデュエル』には高いレベルで盛り込まれていた。リリース前の期待値を大きく越える作り込みが、トレンド化の要因となったに違いない。
おそらくファンが懸念していたのは、「完成度の低い公式発・完全版」の誕生だったはず。もし『マスターデュエル』がそのようなタイトルであったならば、新作として改めてリリースされることに意味はなく、「(モラルの問題はあるが)非公式のシミュレータでいいや」となっただろう。現時点での完成度を考えると、そちらを選ぶ理由はほぼなくなったと言える。
また、浸透するプラットフォームすべてに対応したことで、初めてシリーズを遊ぶ、あるいは長らくシリーズを遊んでいなかった層に訴求できた面もある。決してハードルが低いとは言えないTCGというジャンル。高い塀の撤去は今後、TCGシーン、さらには同ジャンルのeスポーツシーンが盛り上がっていく上で、大きな意味を持つかもしれない。開発・運営元であるコナミによると、将来的にはシリーズの世界大会を『マスターデュエル』を活用して開催する計画があるという。今回のトレンド化によって、同大会にも一層注目が集まっていくはずだ。
課題は、「アナログTCGとのルールの違い」
一方で、課題がないわけではない。その課題とは、現状デュエルが「シングル」ルールのみでしかおこなえず、「マッチ」ルールであることを前提に、運営によって定期的に実施されてきたカードプールへの調整が一部意味を成していない点である。
遊戯王のカードゲームシリーズには、デュエルにおける勝敗の決め方に2つのルールがある。ひとつが1回の対戦で勝負を決する「シングル」ルール、もうひとつが3回の対戦のうち2勝した側を勝者とする「マッチ」ルールだ。後者においては、1戦目の内容を受けて対策できるよう、対戦と対戦の間に、プレイヤーがあらかじめ準備してきた予備のカード群(「サイドデッキ」と呼ばれる)とカードを入れ替えられる仕組みが設けられている。基本、相手のデッキの情報がないなかでの対戦になるTCGにおいて、一部のメタカードに対応するための、ゲーム性に広がりをもたらす要素だ。
しかし、『マスターデュエル』では、すべてのデュエルが「シングル」ルールで運用されるため、一部のメタカードに対応する術が少ない。もちろんあらかじめそうしたカードが相手のデッキに組み込まれていることを想定し、準備はできる。けれども、出会い頭での対戦となる仕組み上、採用している側がやや有利となってしまう現状があるのだ。
新規ユーザーの維持、TCGシーン・eスポーツシーンの盛り上がりを見据えるのであれば、ゲーム性を縮小させるこの課題には、早めにテコ入れをしていく方がいいだろう。「マッチ」ルールの実装、あるいは(考えにくいが、「シングル」ルールのみで運用するならば)『マスターデュエル』独自のカードプールへの調整が必要となるのではないだろうか。
とはいえ、TCGのジャンルに確実に新たな風を吹き込ませた同タイトル。いちプレイヤーとして、今後の展開に期待していきたい。
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