声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”(第七回)
Clubhouse・グローバル責任者が語る音声SNSの未来 「日本の爆発的な広がり方は想定外」
コロナ禍の影響もあり、ここ1年でPodcastやインターネットラジオ、音声SNSなど“音声”を軸としたサービスが増加し、ユーザー数を増やしている。そんな広がりを見せ始めた音声メディアや音声SNSについて、有識者に未来を予想し考察してもらう連載企画「声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”」。
音声SNSという存在を日本に印象づけ大流行となったClubhouse。現在は特定のコミュニティやカルチャーに特化し、Android版や日本語へ対応するなどローカライズ化を進めている。世界的にユーザー数を増やすなかで、「爆発的な流行→特定のコミュニティへと特化」という特殊なマーケットとなった日本のマーケットにて、Clubhouseは今後どういった拡充を目指すのか。世界全体のサービスの動きを把握し、グローバルな音声サービスの視点を持っている国際部門統括責任者 アーティ・ラママーシー氏に、2021年を振り返り、音声SNSの今後について言及してもらう。(古田島大介)
オーディオ体験の高度化によって音声SNSが台頭した
ーー2021年は世界的に見ても、音声SNSが非常に盛り上がりを見せた年でした。まずはグローバルの動向について教えてください。
アーティ・ラママーシー(以下アーティ):私たちClubhouseは“新生音声SNS”として2020年4月にサービスを立ち上げました。以来、ダイナミックで活気に満ちた形でこれまで取り組んできました。よく音声コンテンツは新しく登場してきたものと思われがちですが、実は人類の文明化における礎として、古来から言葉を使ってコミュニケーションしてきたことに帰結するんです。いわば音声による人同士の対話は、太古の昔から固有のものとして私たちの心に刻まれており、現代の音声SNSが創る文化にも通ずるところがあるわけです。そんななか、音声SNSが台頭してきた背景としては技術的な進歩が挙げられます。ワイヤレスイヤホン「AirPods」の普及や、Spatial Audio(空間オーディオ)、Text to Speech(テキストから音声に変換する技術)など、オーディオ体験の高度化が進んできたことで、音声SNSが活況になったと言えるでしょう。
ーーClubhouseも2021年は大きく躍進しました。
アーティ:立ち上げ当初は従業員が8名でしたが、今では90名を超える規模まで成長し、毎日70万以上のルームが作成されるほどにアクティブユーザーが増えています。また、グローバルトレンドとしては影響力のある著名人やセレブの方々も入っていただいており、音声SNSは非常に注目の的となっています。ただ一方で、決してKOL(Key Opinion Leader)やインフルエンサーだけのものではないと思っています。Clubhouseの提供する場はエクスクルーシブ(独占的)ではなく、インクルーシブ(包括的)なものだと思っていて、公開された場所で人と人が繋がっていけるようなコミュニティを作っていきたいと考えています。
日本の音声SNSブームに火をつけたClubhouseの存在
ーー日本では国内発の音声配信サービスである「Voicy」や「stand.fm」などの台頭も見られますが、Clubhouseは2021年1月から日本でβ版を運用開始しました。日本の音声SNSはどのような動きがあると捉えていますか?
アーティ:Clubhouseは日本の音声SNSブームに火をつけたことで、音声SNSに参加するユーザーが急速に増えています。そんな状況のなか、他のサービスと違うのは「どこにフォーカスしているか」ということです。他社の場合、既存のプラットフォームに音声機能を加えているものが多いですが、Clubhouseは「ユーザー同士が音声で繋がれるコミュニティや高品質なオーディオ体験を提供している」点が非常にユニークなんです。また、日本の市場はグローバルの平均と比べてもルーム数や利用時間が上回っているのも特筆すべきことでしょう。
今年の夏以前までは1日あたり30万ルームだったのが、夏の終わりには70万ルームに増加しました。利用時間も、現在は1日平均113分と長い間ユーザーがルームに滞在しています。これは、通勤時間にClubhouseを受け入れる体制があったこと、多様性に富んだルームが生まれたことが主な要因だと思っています。日本特有のルームも多く、生産性を向上させるルームや漫画の描き方を教えるルーム、環境音を活用したマインドフルネスのルーム、朝活をサポートするルームなど、非常にバラエティあふれるルームがクリエイターによって作られ、ユーザー同士が活発に活動できる土壌ができ上がっていると感じています。
日本におけるClubhouseの爆発的な拡大は想定外だった
ーー日本でのClubhouseは瞬く間に世間を賑わすくらい、初速の勢いがすごかったですよね。このように、Clubhouseが爆発的に広がっていたことに対して想定内だったこと、想定外だったことについて教えてください。
アーティ:Clubhouseがもともと招待制にしていたのは従業員が8名規模と小さな会社だったゆえ、いきなりグロースさせると対応できない懸念があったからでした。なので、日本のユーザーが一気に増えたのは想定外の嬉しい誤算でした。サービス自体の認知や使い方、利便性なども口コミで自然と広まっていったので、招待された時にはすでにClubhouseを使いこなせるユーザーも顕著に見られました。そして、運営の体制が整ったタイミングで招待制を撤廃し、登録制に切り替えたことでさらにユーザーの裾野が広がったと言えます。そういう意味では、想定以上の成長を実感できていると感じています。とはいえ、まだまだClubhouseはローンチして間もないサービスなので、既存のプラットフォームと比べてローカライズを進めるべき部分が多く残っていて、今は粛々とその対応を進めている段階ですね。
ーー日本では一時期、Clubhouseの安全性や危険性の是非が問われました。コミュニティやサービスの健全性を担保することについてはどのような考えを持っていますか?
アーティ:安全性や信頼性を担保するのは非常に大事な要素です。グローバル共通でコミュニティの健全さを保つためには「Policy」「Product」「People」の3つの観点が大切になってきます。私たちは常に、ガイドラインに沿った正しいサービスの使われ方がされているかモニタリングを行なっています。多様性こそClubhouseならではの強みですが、同時に安心してサービスを利用できる環境づくりをできるかが重要だと捉えています。