月ノ美兎は、VTuberの“カッティングエッジ性”を代表し続ける
特に昨年のコロナ禍を通して大きく注目を浴びるようになっていったVTuber・ヴァーチャルタレントのシーンを通過し、2021年前半期には各々によって事情が異なるものの、にじさんじ内外を含めて多くのVTuberが活動休止が重なった。
過大ともいえよう期待・仕事量に忙殺されていた月ノ美兎が、2021年1月〜2月にかけて2週ほど配信を休み、自身の活動を省みる時間を設けたことを考えると、彼女のセルフマネジメント力にはやはり注目すべきだろう。雑談や大人数の会話の最中にもうかがい知れるが、彼女は『自分が何者なのか』『何をしたいのか』ということを強く自覚してきたタイプだろう。それゆえにカッティングエッジな存在へと研ぎ澄まされてきたとも言えるし、抜いた刀を鞘へ納めることもできたともいえよう。
リフレッシュ期間を経た彼女は、その後も活動をこなし、『にじFes2021』『にじさんじ AR STAGE "LIGHT UP TONES"』という箱内イベントだけでなく、『VTuber Fes Japan2021』や『V-Carnival』『YouTube Music Weekend』にも、にじさんじを背負うようにしてソロ出演。そして待望となるファーストアルバム『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』をしのごの/SACRA MUSIC(ソニー・ミュージックレーベルズ)からリリースし、まさに「夢のヴァーチャルアイドル(「Moon」より)」へと近づいた。秋には初めてのソロライブが控えている。
「実は友人へのウケ狙いでライバー活動を始めた」とも語る月ノ美兎。自身の声やキャラクターデザインからは清楚な委員長、口を開いてみるとサブカル&オタクな見識やメタな読みをフルに活かした陰キャ、音楽や歌に関わるときはキラキラなアイドル、新衣装ではゴシック&ガーリーな地雷系衣装やキッチリとした和風まで用意して大胆にイメチェンし、様々な表情を見せてきた。
一見すると矛盾のように見えるかもしれない、もしかすれば無節操で統一性がないようにも見え、今後離れてしまうファンも出てくるのかもしれない。
だが同時に、さまざまな色合いの鏡を生みだしては自分を映し出してきた彼女は、万華鏡のように観るものを虜にする。その手でコロコロと回しながら、リスナーは彼女を楽しみ、彼女もまたリスナーを楽しむことにも繋がるのだろう。
このようなマジックを生みだせるのは、彼女が「人を楽しませる」というエンターテインメントの根幹から一切ブレることなく活動してきたからにほかならない。様々な角度から細心の注意と大胆さをもって配信活動をつづけ、時には自分の身を挺しても人を楽しませようと試みてきた。
ミュージックビデオのなかで彼女は月へと飛び出していくシーンがあるが、いつの日か雑談配信中に「実はわたくし、この前に月に旅行に行ったんですけど……」と語りだしても、なんのこともなく受け取れてしまいそうなほど「彼女ならやりかねない」と期待してしまうのだ。ネット世界を駆け巡ってきたそのエンターテイナーとしての実力は、今後はネットを飛び越えていくのだろうか。今後の活動が本当に注目すべきだろう。