鬼滅、ジョーカー……「悪役」の背景に魅了される理由 人間の悪を描く『酒癖50』から紐解く

 『酒癖50』(ABEMA)がおもしろい。酒がもたらす様々な悲劇を描く本作には、一度見始めると目が離せない中毒性がある。CMを挟まず一気に見せるウェブドラマの構成に加え、背景にある社会の歪みや登場人物の弱さを掘り下げることによって、単なる酒乱エピソードで終わらない広がりと深さをもたらしている。

 酒飲みの数だけ酒癖はあるのだろう。各話の主人公はいずれもサラリーマンで、トラブルも職場の人間関係に起因するものがほとんど。しかし、ひとたび酒が入ると、それぞれが個性的な“酒癖モンスター”に変貌する。これまでに配信された各エピソードでは、アルハラ、酒乱、酒の席での無礼講によって破滅的な人生を歩む様子が描かれた。

 第1話で、営業社員の青田勢(浅香航大)は得意先の接待で一気飲みを部下に強要する。実は青田も新人時代に先輩に連れられて、接待の場で無理やり飲めない酒を飲まされていた。青田は体を張った接待で営業成績を残し、社内で一目置かれる存在になるが、そのことがさらなる悲劇を引き起こす。第2話の下野優(前野朋哉)はうだつの上がらない中堅社員で、上司に叱られる毎日を過ごしている。鬱憤を晴らす方法は酒だが、酒が入ると人格が豹変して手が付けられなくなる。下野はそんな自分に嫌気が差して、酒をやめようとするが……。

 酒があらわにするのはその人の内面だ。酒の力で出世した青野は仕事のためならハラスメントもいとわず、下野はアルコールがないと本音をぶつけることができない。そこには本来あるべき仕事のやり方や自分自身への視点が抜け落ちている。第3話の主人公、口山憲治(犬飼貴丈)は、普段はおとなしい総務社員だが、ある晩、職場の懇親会で「無礼講だから」とけしかけられて係長への不満をまくし立てる。それが同僚の評判を呼んで他の部署からも声がかかるようになり、いつしか若手のリーダーとしてまつりあげられる。

 “ラスボス”北沢部長(般若)の不正を糾弾したことで、最悪の事態を招いた口山。「口は災いの元」と言われるが、常識というブレーキを手離した彼に自身を省みる様子は見られなかった。“酒癖モンスター"が道を踏み外す根っこには、本人の弱さや矛盾がある。酒はそれを明らかにしただけだ。その一方で、青野に一気飲みを強要した先輩社員や口山をあおった同僚のように、周囲の人間が間接的に手を貸していることも多い。酒を飲むことには逃避の側面もあり、営業成績や人間関係の悩み、仕事のストレスが人をアルコールへ向かわせるのだ。

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