短尺動画市場の開拓者、元VAZ社長・森泰輝から見た“TikTokの凄さ” 「GAFAに勝つことを目指し、本気でやっている」

 日本トップレベルのショートムーバーやYouTuberを抱えるプロダクション『VAZ(バズ)』を立ち上げ、Forbes Asia主催の次代を担う30歳未満の30人『30 Under 30』のメディア&マーケティング&広告部門に選出されるなど、YouTuber業界の発展に貢献した森泰輝氏。現在は同社の代表取締役を退き、Pien株式会社代表取締役CEOとして次の事業を準備している彼が、『「ダメな自分」でも武器になる コンビニバイトはクビでも年商14億企業をつくった男の人生戦略』(扶桑社)を上梓した。

 同著はひきこもりの大学生でアルバイトも長く続かなかった森氏が、どのようにして生まれ変わり、先述のような快進撃を繰り広げたか、そしてそこから会社の炎上騒動や辞任劇にまで発展したのかが事細かに綴られるなど、彼のジェットコースターのような人生の成功と失敗から学ぶことの多い一冊となっている。

 今回は、同著を制作しようと考えた理由にはじまり、ショートムービーに目をつけて動画インフルエンサー事業に乗り込んだ森氏が考えるTikTokのすごさや、彼がなぜ輝かしいキャリアだけでなく、失敗までを赤裸々に綴ったのかについて、じっくりと話を聞いた。

「こうしたらうまくいく」という方法はない

ーー今回なぜこの本を、動画インフルエンサービジネスではなく、自己啓発に近いビジネス書の形式で出されたのでしょうか?

森:まず僕がVAZを退任したのは「このままでは会社の成長が難しい」という判断があったからなんです。そんななかで編集を担当した扶桑社の秋山さんと出版の話を進めていたので、「いま、この立場で本を出して良いのか、それにどういう意味があるのか」と葛藤していたことは事実です。

 それでも30歳の節目に何かを残したいと思ったこともあり、僕が20歳くらいのときに知りたかったことや、役に立つような本を書くことにしたんです。そして長期的に読まれ続ける普遍的なものにしたかったので、動画ビジネスだけではなく、キャリア形成に役立つものという方向に決めました。

 この本では、これまで後輩や就活生たちと話してきたなかで、特に“刺さった”話をまとめています。「こうしたらうまくいく」という方法はなくて、それを自分で見つけていくための手法を伝えることにこだわりましたし、正解を教えるというよりは、どう導き出すかを具体的に書きました。

ーーキラキラした成功体験が並べられているのではなく、「地道にやる」「向いていないことを見つける」など、地に足がついているけれど刺激を受ける、異色な本だと感じました。

森:等身大で話していたいなと思っていて、なるべく自分を大きく見せないように意識しました。

ーーそこが読みやすい理由かもしれませんね。

業界における“事務所”の役割が変化 限界を感じたプロダクションマネジメント


ーーそもそも、森さんが2013〜14年の時点で、ショート動画(Vine・ミクチャ)に目をつけたのはなぜなのでしょうか? 動画インフルエンサーに可能性を感じた理由も伺いたいです。

森:動画インフルエンサーが流行り始めたのが2014〜15年あたりだったのですが、そのときちょうど動画投稿者と会う機会があって、自分もショート動画を使ったマーケティングをやっていたこともあり、ウェブメディアのその先に、動画インフルエンサーが来るなと感じました。そのときはショート動画をビジネスとして発展させるのが難しかったので、結局YouTubeとか長尺の動画にコミットすることになり、マーケットが立ち上がる流れを経験させてもらいました。

ーーマネタイズできないというのが、Vineやショート動画の弱点なのでしょうか。

森:問題はいくつかあります。

 まずプラットフォーム側の問題としては、YouTubeのような強いプレイヤーがいなかったことが挙げられます。優秀な経営陣と資本力が揃ってる強いプラットフォーマーがいたら良かったのですが。Twitterに買収されたVineでいえば、日本人ユーザーにどうフィットさせるか、などのローカライズ戦略やマーケティング戦略もなく、資本投下も今のTikTokほどではないし、GAFAに勝つ意気込みもなかったんです。

 あとはマネタイズの話で言うと、まず若者に流行らせたあと、そこからローカライズして、利用者の年齢層を上げて購買力をつけないといけないのに、それができなかった。広告主から稼ぐビジネスなので、若年層だけでの流行では弱いです。

 次に時流の問題ですが、当時は3Gで動画がサクサク見られるようになったこともあり、動画インフルエンサーが黎明期を迎えたなかでも、長尺の動画に光が当たっていきました。そこからトップYouTuberが生まれ、彼らが職業としての市民権を得たことで、芸能人も含めた新規参入が増えたのは周知の事実です。しかし、参入する人が増えるほど、新規のYouTuberは伸びづらくなり、現在では視聴者と発信者の需要と供給が崩れている状態になりました。そのタイミングで、TikTokやショートムービーが台頭してきたわけです。TikTokはプレイヤーとして資本投下、ローカライズ、そして年齢層の拡大までやり切りました。GAFAに勝つことを目指す会社がショートムービーを本気でやったからこそ、ここまでの勢いが生まれたのだと思います。

 ユーザー視点から考えても、需給バランスが崩れているとはいえ、新しい人を見つけたいというニーズはあるので、フォローしていないユーザーの短い動画を見て発見するという流れができました。そういう意味でも、TikTokが「世界で初めておすすめ欄だけで成り立つSNS」を作ったことは大きいです。知らない人の動画を5分も見るのはきついですし、“ショート”であることをうまく利用していますよね。ちょうどYouTubeで需給バランスが崩れてくる2年前くらいに参入してきて、TikTokが流行り出すころには新しい配信者が伸びる仕組みが完成されていました。最近のトップYouTuberは、TikTokで認知を得てから現れる事例も多いです。

ーーある程度TikTokでフォロワーを得てから、YouTubeに戦いを挑むという流れができているんですね。

森:YouTubeは検索がベースになっているので、氏名検索が増えるとレコメンドにも上がりやすいですから。TikTokで認知度を得て、検索数を増やすのは効果的です。

ーーVAZが運営する女子中学生向けYouTubeチャンネル、めるぷちやMelTVは、当時の需給バランス崩壊打破の1つの成功事例となったと思いますが、現在は同じような事例で後発が成功しなくなっているとも言えます。その理由をどう考えますか?

森:個人チャンネルではなく、メディアとしてチャンネルを持つことの問題は、出演者に依存してしまうことですね。TikTokもYouTubeも、出演者に依存するメディアなんです。既存の方がやめていくとチャンネルが停滞してしまうのを防がなくてはいけない。自社メディアをやる上では、YouTubeにしてもTikTokにしても、人を出演させない選択肢をとるか、うまく人の入れ替えをして、人気が下がらない方法を探らないといけません。その対策ができかったために下降していくチャンネルも散見されます。

ーー以前「YouTuberをメインとするプロダクションマネジメントという形態に限界を感じた」とおっしゃっていましたが、具体的にどういうことか教えてください。

森:まずマクロの話でいうと、エンターテインメント業界におけるプロダクション事務所の役割転換ですね。UUUMやVAZができてすぐの2014〜15年頃は、業界全体として、事務所に所属するのが当たり前という風潮でした。事務所はビジネス周りを担当し、演者さんはタレント活動に徹するという役割分担が機能していました。ただそこに違和感を抱くタレントさんが増えた結果、事務所の形態自体が難しくなってきています。

 インフルエンサー事務所に焦点を当てると、彼らがほしいサポートがあまりできていなくて、「それなら自分でできる」と考える方が増えました。登録者数が伸びる前は必要でも、伸びた後は所属の必要性を感じないといったケースもあります。でも事務所側からすると、所属し続けてもらうために譲歩し続けるのって、サステナブルじゃないですよね。それをサステナブルにするには、大手のクライアントをたくさんかかえる代理店が、案件を引っ張ってくるしかないんです。僕が今回株式を譲渡させてもらったのも大手の代理店さんでして、そういうところが運営された方が、個人では取ってこられない案件も得られたりします。逆に大きな案件以外のメリットを生み出すのがなかなか難しいというのが正直なところです。

ーーもう少しミクロなところで言えば、以前にnoteでも書かれていたように、社内での変化なども挙げられると思います。(参考:https://note.com/taikimori/n/nd56efc0ff42d

森:VAZの話で言うと、クリエイターさんがどんどん抜けていったことですね。ただやはり業界全体の流れの方が大きいです。

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