魂を死者の世界へと導く『Spiritfarer』が描く、「ケア」を通じた死への向き合い方

『Spiritfarer』が描く「死への向き合い方」

 物語の節目では、死の化身と思われる巨大な白いフクロウが幾度か登場する。フクロウが広げる白い巨大な翼は、小さなステラのハグとは対照的な暗い死の抱擁を思わせる。しかし、ステラのハグは旅立つ魂たちの存在を自身のなかへ抱擁する無条件の受け入れの所作として、非常にあたたかいものではないだろうか。旅立った魂たちはステラ(プレイヤー)のなかで生き続ける。そして、最後はステラ自身がエバードアへと向かい、自らの死に臨む。多くの人々の死に寄り添い、彼らを見送ってきたステラが、自らの死に何を見出すのかは明言されない。しかし、彼女が見送ってきた魂たちの存在を思い起こすのであれば、彼女の死出は決して孤独ではない。ここまで重ねてきた他者の死出のケアは、最終的に自らの死に支度として還元される。

 本作において、ゲームとしてのタスクは「クリア」するものというよりも、「ケア」するものと考えてみるのが良いのではないだろうか。ケアを通じて喚起される好意、嫌悪、無関心は全てプレイヤー自身の心的問題として、私たち自身に任される。本作に置いて、ケアは人と人のつながりを構築し、死を来たるべき恐ろしい途絶とは別のものとして捉えようと試みる。そのような死への旅路が本作のゲーム体験を独創的なものとしている。初見では、現実と幻想、生と死が交錯するこの世界に対し、不気味な印象を受けるかもしれない。しかし、それを全く感じさせない、柔らかなタッチで描写される心地よい静謐さとそれを満たす緩やかなBGMが、「死出のケア」という重いテーマと、「遊び」としてのゲームプレイのあいだに絶妙なバランスを築いている。

■ロラルロラック
文学畑の非常勤大学講師。文芸批評理論を用いたゲームのナラティブや遊びの形式分析に関心あり。ゲーマーとしては専らオンラインゲームをプレイする日々。

〈Source〉
ガストン・バシュラール『水と夢――物質的想像力試論』及川馥訳、法政大学出版局、2008年。
Rachel Watts, “Spiritfarer is a serene boat adventure about compassion in the face of death.” PC Gamer, Aug. 7, 2020.

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