ホリプロ鈴木秀が語る、「インフルエンサー×芸能」のネクストステージ

 大手芸能事務所・ホリプロが手がけるバーチャルタレント・伊達あやの。彼女は同社が過去に手がけた“早すぎたバーチャルタレント・伊達杏子”の娘として生まれた存在として、YouTubeやTikTokのスタディコンテンツで、大きな話題を集めている。

 そんな彼女のプロジェクトにおける仕掛け人が、株式会社VAZの創業メンバーであり、現在は株式会社ホリプロデジタルエンターテインメントで統括執行役員を務める鈴木秀氏だ。今回は伊達あやのをはじめ、同社に所属するインフルエンサーのデジタル戦略や今後の展望について、じっくりと話を聞いた。(編集部)

「インフルエンサーと芸能というのは、全く違う性質なんだ」


ーーまずは鈴木さんが、どのような形で伊達あやのさんのプロジェクトに携わることになったのか教えてください。

鈴木:僕は前職(VAZ)を含め、約4年間インフルエンサーに関するビジネスに携わってきたのですが、前提として、インフルエンサーには自分でクリエイティブが作れるというメリットがある傍ら、誰かがつくったものを演じたり、読んだりすることに苦手意識のある方が多いな、というのを感じていました。とくにナショナルクライアントさんとの案件で、そういったことが顕著に出ていたような気がします。

――ある種の“素”を売りにするモデルであるからこそ、そこからはみ出すことがデメリットになるという。

鈴木:そうです。ホリプロに入って思ったのは、そうしたインフルエンサーというジャンルと芸能というのは、全く違う性質なんだということですね。しっかりレッスンを受けて基礎能力を上げて、与えられたものに対して120%で打ち返すプロフェッショナルを育てることの大事さを学びました。そのうえで、インフルエンサーと芸能の良いところを取ろう、ということを考えました。つまり「しっかりレッスンを受けさせること」と「インフルエンスを高めること」の両立ですね。それを目指して作ったのが株式会社ホリプロデジタルエンターテイメントで、インフルエンス的な部分での教育に力を貸してくださることになったデジタルハリウッド大学さんの杉山(知之)学長にお会いしたら、彼が堀(義貴)社長と一緒に伊達杏子のプロジェクトを一緒に手がけた人だということがわかったんです。

――そうして、娘である「伊達あやの」さんをデビューさせる計画が始動したと。

鈴木:伊達杏子は39歳で、娘となると16歳くらいだよねという話になり、新しい2世タレントの形として、ホリプロのストーリーも体現できると考えて、デビューさせることにしました。堀社長からはあっさり許可が出たのですが、同時に「ワクワクさせてほしい。失敗するとか成功するとかそういうのじゃなくて、楽しく出来るか、世の中をワクワクさせられるかだけを考えて」という言葉もかけていただいて。

――その視点は面白いですね。他のインタビューでもお話しされていましたが、堀さん自身、伊達杏子さんのプロジェクトへの未練が少し残っていたそうですね。

鈴木:プロジェクト実施にあたって、社長室から資料が沢山出てきて驚きました。必要ないものなら早々に捨ててしまうと思うんですけど、その大量の資料を抱えて嬉しそうに語ってくださるのを見て「純粋にこういうコンテンツが好きなんだ」と感じました。今も「こういうトピックがあるよ」と時々メールをくださったり、かなり気にかけていただいているのかもしれません。

――新しいもの・次の物をどんどん見つけていきたい、探していきたいみたいな探求心が会社にあるからこそ、評価されているプロジェクトでもあるのかなと。

鈴木:堀社長は「ホリプロ本体だったらできなかった」とも言っていましたが(笑)。正直、収益性も特に求めていなくて、長期的にプラスになればいいと思っていることなんです。最初は会社のプロモーションも兼ねてスタートさせたはずが、今や「伊達あやの」がホリプロデジタルエンターテイメントのPDCAを一番回しているプロジェクトになったんですが。

ーーそれはどういうことでしょう?

鈴木:詳細は伏せますが、彼女のプロジェクトでの反応やユーザー動向などを観察して、その結果を三次元のインフルエンサーにフィードバックする、ということをしているんです。以前は配信アプリ『MixChannel』の立ち上げにも関わっていたんですが、大学生なりに、小さなABテストを重ねて、プロトタイプを作りまくって……リーン開発的な形で進めていたんです。ただ、実際のタレントをABテストに使うわけにはいかないですよね。だから、彼女のようなバーチャルな存在にそこを担ってもらいました。そのおかげもあって、ホリプロデジタルエンターテイメントのタレントは所属する前のフォロワーが三桁というところから、1万以上になり、10万、20万とフォロワー数を増やしていけるようになったんです。

――伊達あやのさん単体で見たときに、チャンネルの運用について想定外な部分はありましたか?

鈴木:2019年のYouTubeは芸能市場からの参入が圧倒的に増えると予測していて、実際にそうなりましたが、新規参入は厳しいと考えました。まず、ティーン層のメインに使うアプリはTikTokに変わっていることが目についたんです。とはいえ、ブランディングを考えるとあまりそこに最適化させるのもどうなんだと思っていたら、“スタディコンテンツ”という勉強系の動画が予想以上にハネて。Googleが提唱する3H「ヘルプコンテンツ」「ハブコンテンツ」「ヒーローコンテンツ」のうち、「ヘルプコンテンツ」をしっかり押さえられたからこその進化だと思っています。二つ目のハブコンテンツで『Mirrativ』『YouTubeライブ』での配信が上がっていきます。動画を編集したコンテンツからライブに切り替えて、チャンネル登録率が二倍に上がりました。また、動画を編集したものを投稿するよりもYouTubeライブに切り替えるということや、IP事業が成功したこともあり、昨年末から伊達あやのプロジェクトと並行して、YouTubeのマンガチャンネルの準備をしています。『もしスト!』というチャンネルなんですが、伊達あやのも声優に挑戦しており、グループでも月間再生ランキングがずば抜けて一位になりました。

――ひとつのチャンネル・アウトプットで過程を見せて全部をやるよりも、色んな出口をつくって、それが全部違う意味を持っているというのがまた面白いですね。

鈴木:それぞれのアウトプットに「このチャンネルの目的は?」と戦略立てて、ポートフォリオを作るように運用していきましたが、予想以上の反響があって驚きました。この成功例は、今後育っていく次世代のクリエイターたちを教育するにあたって、大きな財産になっています。

――ABテストのようなものというのは、具体的にどういった検証を指すのでしょうか?

鈴木:細かいことですと、パーカーの文字や着ている服の色や明るさ、サムネイルの方向性などを全て点数化しました。一番データドリブンマーケティングをやっているタレントかもしれませんね。

――伊達あやのさんについては、リアル・バーチャルの垣根を超えた会社の大きな事例の一つにもなっていると。これはバーチャルの施策がリアルなインフルエンサーに活きた例ですが、その逆として、VAZでの経験値が伊達あやのさんのプロデュースに活きた部分は?

鈴木:僕がVAZに在籍している間、ヒカルさん・ラファエルさん・禁断ボーイズの3組には色んなことを教えてもらいました。ヒカルさんは「継続力と爆発力を生むためには何をすればいいのか」ということを、顔色が悪くなるほど考えている人なんです。そして、禁断ボーイズは、一つのサムネイルを作るために4人で大喧嘩するくらいのこだわりを持っていたり、ラファエルさんは経営者なので、経営目線のチャンネルというものの見方を学びました。彼らがいなければ、今のようなモデルも生まれていなかったと思います。

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