量子コンピュータはIT業界とAIをどう変える? Googleや専門家の見解から考察

 10月23日、Googleは量子コンピュータが古典的コンピュータでは計算不能な問題を解いたとする「量子超越性」を実現したと発表した。量子コンピュータに関しては数年前から積極的な投資がなされており、今後の応用が期待されている。一方で、量子コンピュータへの期待は現在でピークに達しており、投資の熱が引くことで「量子の冬」が訪れるのではないか、という危惧の声もある。

はじまりは機械学習の加速化

 量子超越性の発表に合わせて、GoogleのCEOサンダール・ピチャイ氏はUS版Google公式ブログに記事を投稿した。その記事によると、今回の成果は2006年から始まった、量子コンピュータでAI技術のひとつである機械学習の処理を加速化する研究が結実したものだった。機械学習を実行するには多大な計算資源を要するのだが、古典的コンピュータの演算能力を大きく凌駕する量子コンピュータを計算に使うことができれば、それを更に進化させられると考えたわけである。

 今回の成果から直ちに量子コンピュータを実用化できるわけではないが、期待される応用としてより効率的なバッテリーの設計や創薬が挙げられる。こうした応用は、そのどれもがAI技術がすでに応用されているか、応用が期待されているものだ。

 量子コンピュータのような革新的技術の開発に関しては、悪用に対する懸念も生じる。こうした懸念に対して、GoogleはAIの善用を約束した同社規約「AI 利用における基本方針」に開発を進めると明言している。

 以上よりGoogleは量子コンピュータを「AI技術を継承しスケールアップさせるもの」と位置づけていることがうかがえる。

ムーアの法則を推進?

 AI技術をスケールアップするものとして量子コンピュータを位置づける見方は、実のところ既に流布している。例えばUS版『ウォールストリートジャーナル』は、今年5月に量子コンピュータがAIを強化することを論じた記事を公開している。その記事では、想定される量子コンピュータのAIへの応用事例として、AIアシスタントを挙げている。現行のAIアシスタントは、ヒトと比べると柔軟な返答ができない。しかし、量子コンピュータが応用されて演算能力が飛躍的に向上すると、現状より適切な返答ができるようになると考えられる。

 世界的なビジネスアドバイザーであるバーナード・マー氏は、自身のブログで10月に公開した記事において、量子コンピュータがムーアの法則を再び推進することを指摘している。ムーアの法則とは、簡単に言えば18ヶ月ごとにコンピュータの演算能力が2倍になるという経験則である。半導体の技術開発が限界に達しつつある現在、この法則の終焉がささやかれているのだ。

 量子コンピュータが実用化されれば、ムーアの法則をさらに強力に推進することができる。その結果、より高性能のAIが誕生すると同時に現在よりさらに巨大なビッグデータを処理できるようになる。

 マー氏によれば、量子コンピュータを実用化した企業がムーアの法則を推進するIT業界の覇者となれるため、世界のビジネスリーダーはこの技術をめぐって開発競争を繰り広げているのだ。

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