エイベックスの“ファントム組織”キーマンとジェイ・コウガミが語り合う 音楽とテクノロジーはどう共栄すべきか?

「『高性能』と体験の『上質さ』は比例しない」

ジェイ:逆に1番イノベーティブなテクノロジーが、現在市場に出回ってるものの中ではインタラクティブ性に欠けていたり、メディアアート的な要素が少なくなっているような気もします。

2ndF:おっしゃる通りだと思います。それは「高性能」ということにこだわりすぎているからかもしれません。「高性能」と体験の「上質さ」は比例しない。音楽に例えると、音源がMP3に低音質化しても、体験としてはたくさんの曲を持ち運べることで上質化したわけじゃないですか。だからジェイさんが言った通り、最近の最先端なものは、いよいよ人間を置き去りにするところまで来ている気もします。

ジェイ:そうですよね。そこに重ねて意地悪な質問をすると、テクノロジーが高性能化の一途を辿るが故に、〈2nd Function〉へ「最先端のコンテンツをお願いします」というオーダーも増えるのではと思います。そうなると、コンテンツのチープ化だったり、作り手が伝えようとしているストーリーがうまく伝わらないことも出てくるのかなと。

2ndF:なるほど。だからこそ、僕たちはそうならないように意思決定の段階ーークリエイティブのコンサルから入っているのかもしれません。コンテンツベンダーだけだとそうなっていく危険性があるからこそ、クライアントさんには「コトを作りましょう」という段階からご提案させていただいてます。必死に食いつながなければいけない組織でもないので、そこを無理に受けたりすることはないと思います。そうしないと、僕らと他業種の企業が組む意味合いはありませんから。

ジェイ:そういう構造が生まれやすくなっているところが、ファントム的な組織のメリットなのかもしれませんね。今回の話のなかで何度か「ナラティブ」という言葉が出て来ていますが、世界ではナラティブなコンテンツを作れるデザイナーさんやストーリーテラーさんが重宝されていたり、そういう方たちが企業の中でも重要視されてるっていう一面があります。そういう新しい職業に対する関心のようなものはありますか?

2ndF:エイベックスとしては、音楽のディレクターに対しても「クリエイティブディレクター」であれーーつまり、これからのレーベルは音楽だけをディレクションしていてはダメで、レーベルというのは色んなことをクリエイティブすることによって、アーティストやカスタマーから信用が置かれるんだ、という考えがあります。また、個人的には、ナラティブという発想を重要視しています。色々解釈があると思いますが、簡単に言ってしまえば「断片的なものしか与えず、みんなが語れるストーリーを作っていく」ということで。分かりやすくいうと『ビックリマン』ですよね。あれは最初、ストーリーがなくてキャラクターだけがあったわけなので、僕らの小学校ではシャーマンカーンとスーパーゼウスが付き合ってることになってましたから(笑)。

 ストーリーテリングはもちろん大事ですが、僕らが重視しているのはナラティブなことを起こせる構造を作れる人や、ナラティブなマーケティング戦略を取れる人なんです。「民主的にして、それをリアルタイムに反映する可変的なものを作ると、そのモノやコト自体が永遠にプロセスになる」と思っていて、これをナラティブマーケティングと呼んでいます。iPhoneもWikipediaもそこに入ると解釈することもできますよね。永遠にプロセスで、誰も完成形を知らない。YouTubeの動画も、再生数に上限はないわけで。「分散化」とか「モノづくりではなくコトづくり」とか「コンテンツからコンテクスト」というのは、全部そこに当てはまると思うので。A&Rではなく、そうやって生まれるコンテクストのレパートリーをつくれる役割も大切だと思います。と、ここまでめちゃくちゃ話してしまいましたが、ジェイさんからも意見を伺えたら嬉しいです。

ジェイ:エンタメの会社がテクノロジーを使う、テクノロジーの会社と競争していくことはあっても、エンターテイメントのためのテクノロジーを作ることって少ないなと思っているんです。例えば、VRだって元々は違う用途で生まれたものが、エンターテイメントのコンテンツに流用できるということで入って来た技術ですし、古くだとTechnicsのターンテーブルを横にしてスクラッチしたことで、音楽の幅が広がったとか、そういう生まれ方ばかりな気がするんです。なので、〈2nd Function〉のようなチームには、テクノロジー企業と一緒に「エンタメのためのテクノロジー」も作ってほしいと期待しています。

2ndF:確かに、その視点は今までなかったかもしれません。現状のものは、テクノロジーを埋めるためのコンテンツになりがちだし、VRに関しても、あのフォーマットに収まりに行こうとしてることに気づかされました。確かに、それをコンテンツ側がもう少しワガママに、聞かん坊になって使っていくことによって、テクノロジーの側の人たちと議論や摩擦を起こして新しいものを作れないと、いまジェイさんが言ったことは打破できないような気がしましたし、僕たちが、クライアントからのお仕事に対して、徹底的にクリエイションによって生まれる“コト”にこだわる理由を言語化してもらったようで、すごくスッキリしました。

(構成=中村拓海)

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