NintendoLabo「つり」のゲームデザインに見る、“任天堂が持つ最強の武器”

NintendoLabo「つり」のゲームデザイン

 NintendoLaboが発売されてから約1ヶ月経過した。ゲーム好きの方ならば様々な反響を目にしたのではないだろうか。

 実際、NintendoLaboにはすごい点が数多くある。「徹底的に考え抜かれた段ボール工作キット」「小さい子供でも間違うことなく作れるデジタル説明書」「会話形式で楽しく理解できる解説テキスト」「高機能な作曲ができる段ボールピアノ」など、様々な要素が大人目線で見ても、目から鱗が落ちるような工夫と完成度に満ちている。そんな中、筆者の観測範囲では一度も語っている人を見かけなかった「すごい点」がある。それは「つり」ミニゲームについてだ。

 「つり」とはNintendoLaboのシリーズVol.1『バラエティキット』内に含まれているミニゲームのひとつだ。段ボール工作で作った釣り竿型コントローラーを使った、一見すると普通の釣りゲームなのだが、実はここに様々な「面白くするための工夫」が隠されている。

LABO:つり1

 本記事ではそんな「つり」ミニゲームのすごい点を紐解きつつ、任天堂のゲームデザインノウハウに迫っていきたい。

釣り竿なのに操作はクレーン式?

 一般的な3Dの釣りゲームといえば、釣り人の視点でゲームが進行していくのが一般的だ。つまり「岸から水面を見る」状態だ。それが釣り竿コントローラーを使った体感ゲームであるなら、没入感を高めるためにそのような視点を採用するのが妥当だろう。実際、「水面を眺める」状態で進行する釣りゲームは非常に多い。

 だが、NintendoLaboの「つり」はまったく違う。そもそも釣り竿の役割が一般的な釣りと比べて大きく異なっているのだ。

 「つり」の場合、そもそも竿を振って針を遠くに飛ばすということをしない。そうではなく、本来は糸を巻き取るためのリールを逆回転させ、クレーン車のような要領で糸を伸ばして海に潜らせていく仕組みとなっている。その際にカメラも一緒に潜っていき、海中にいる魚たちを直接視認できるようになる。釣り体感ゲームなのに釣りの常識から大きく逸脱したリアリティに欠ける操作設計で、体感ゲームとして考えると大きなデメリットのように思える。だが、実はこれによって様々な利点が生まれているのだ。

クレーン式によるメリット1:見える化

 釣り糸をクレーンのように潜らせていく操作を採用したことで生まれるメリット。まず1つ目が「見える化」だ。

 海中にいる魚の姿が「見える」。魚がエサを食べる瞬間が「見える」。食いついた魚の種類やサイズが「見える」。引っ張っている最中の魚の動きが「見える」。釣り針と一緒にカメラが水中に潜ることで、魚に関する様々な情報を直接視認できるようになる。

 それによって生まれるのは「攻略性」と「ドキドキワクワク感」だ。どこにどの魚がいるか見えるから「あの魚を狙おう」と狙いを定めることができるし、食いつく瞬間や暴れている瞬間が見えるのであれば、動きをよく観察して魚との駆け引きをより強く味わうことができるようになる。また、目当ての魚が餌に興味を持ってるなら「来い! 食いつけ!」とヤキモキできるし、食いついた魚が大物ならば「これは絶対に逃がすものか!」と熱くなれる。

 また、海は深海まで深く潜ることができるようになっているのだが、それによって風景の変化が生まれるのも大きいだろう。潜っていく過程で沈没船に出会ったり、亀裂の間を潜った先には真っ暗な深海が待っている…。といった風に雰囲気が変化していく。それによってダイビングのような楽しさも生まれているのだ。また、底の方から魚を引っ張り上げていくときに風景がだんだん明るくなっていくことで「水面に近づいている」進捗感を強く味わえる効果もある。これもまた「見える化」による恩恵だ。

クレーン式によるメリット2:シンプル化

 釣り糸をクレーンのように潜らせていく操作を採用したことで生まれるメリット。2つ目が「シンプル化」だ。

 「つり」は何種類もあるミニゲームの1つでしかない。これだけのためにコストを費やすわけにはいかない。でもできる範囲で最大限の楽しさを生み出したい。それを任天堂は「アイデア」で両立することに成功している。

 例えば一般的な釣りゲームの場合、釣り場が複数ある場合が多い。それによって風景や魚の種類に変化を生むという構造だが、「つり」の場合はそれを浅いエリア、深いエリア、深海エリアといった形で「深さ」に持たせることで1つのエリアにまとめてしまうことに成功している。また、一般的な釣りゲームでは「この場所でアレが釣りやすい」といった外からの情報を元に釣り場を選ぶ要素もあるが、それも海の中を直接覗き込んでしまえば不要な要素だ。また「手前と奥」ではなく「深い所と浅い所」という構図にして「釣り針を遠くに投げる」というアクションを排除したこともシンプル化のひとつだろう。

 複数の要素をまとめシンプル化することは、「制作コストや制作期間を最小限に抑えられる」利点があると思われるが、また同時に「プレイヤーの負担も減る」という利点もある。覚えることが少なくて済むのでルール説明も最低限で済んでいるし、操作がシンプルになるため余計なボタンも不要になる(実際、つり上げた後の魚拓を取る操作も竿を振って行うし、ゲーム終了後の結果画面すらも竿の上げ下げによって閲覧する方式となっており、ボタン類は一切使用しない)。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる