米ギブソン、事実上の“経営破綻”を選んだ理由 老舗ブランドが消える可能性は?

 米ギブソン・ブランズが5月1日、米連邦破産法第11章(英名通称チャプター11、日本の民事再生法に相当)の適用を米裁判所に申し立てた(参考:5月2日付日本経済新聞電子版『老舗ギブソン破綻、ヤマハが狙う米ギター市場』)。負債額は最大5億ドル(約545億円)に上り、事実上の経営破綻に当たると報じられたことから、多くの音楽ファンからギブソンのギターがなくなるのでは、と不安の声が上がった。そこで今回のギブソンの動きについて、楽器業界での勤務経験もある音楽ライターの冬将軍氏に話を聞いた。

「“経営破綻”と言っても、ギブソンおよび、エピフォンのギター生産開発及び販売事業は継続していくそうです。今回ギブソンが申請した米連邦破産法第11章は、最近だとゼネラルモーターズやリーマン・ブラザーズ、東芝のウェスティングハウス・エレクトリックカンパニーなどが適用したもので、更生管財人制度がなく、旧経営陣がそのまま企業に残ることができる法律。あくまで会社の再生を目的としたもので、日本の倒産法である会社更生法とは異なり、民事再生法に近いものです。ユナイテッド航空やアメリカン航空はチャプター11申請後にしっかり再生していて、アメリカン航空に関しては、現在世界最大規模の航空会社になっているほど。また、自動車メーカーのクライスラーは申請からわずか1カ月で再建に成功しています。ギブソンも再建する可能性は十分あるでしょう。チャプター11では経営再建計画を策定し、債権者数にして過半数かつ債権額にして3分の2以上の賛成により承認されなければならない、と定められており、今回ギブソンは承認されています。つまりそれは、負債を返済できる見込みがあるということです」

 ではギブソンはそもそも、なぜ経営破綻にまで追い込まれてしまったのだろうか。

「オンキヨーやティアック、オランダのフィリップスのオーディオ事業であるウークスの買収が一因でしょう。中でもウークスに関しては買収金額に見合った回収ができていないと言われています。実は、ギブソンはギター事業だけで見ると黒字だったので、今後は買収した企業を手放してギター事業に徹することによって、会社自体の再建を図っていくようです」

 再建のキーパーソンは誰なのか。冬将軍氏は、ギブソンCEOのヘンリー・ジャスキヴィッツを挙げる。

「彼はもともと投資家で、1986年に倒産しかけていたギブソンを買収して救ったやり手です。80年代に、その概念すらまだなかったヴィンテージに目をつけ、リイシュー(復刻)モデルを作ったり、フラットマンドリンやバンジョーの生産を復活させるなど、古き良きギブソンを目指した。今の多くの人が知っているギブソンの姿は、このヘンリー・ジャスキヴィッツが作り上げたものなんです。ギブソンは1902年に創業し、最盛期とも呼ばれる1944〜1969年はChicago Musical Instrumentsの傘下でした。その後業績不振に陥り、コングロマリット(全く異なる業種に参入する企業形態)が流行した1969年に、パナマに拠点を置くビールやセメントを扱っていたエクアドルの複合企業ECL(のちにNorlin Corporationに社名変更)に買収されます。この“Norlin Era”(ノーリン期)と呼ばれる時代は、木の切れ端を寄せ集めてプラスチックでラミネートしたギターをはじめ、デザインや機能性含めて“B級ギター”や“ビザールギター”に属されるような数多くの“迷器”を作っていたこともあり、多くのギターファンから迷走期、低迷期と呼ばれています。老舗ながら、現CEOが入るまでは経営自体はあまりうまくなかった企業だと言えるでしょう」

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