日本がeスポーツ市場で世界に遅れをとる理由 ユーザーを増やすための課題は?

 日本でも各種メディアで取り上げられることが多くなった、エレクトロニック・スポーツ(以下eスポーツ)。ムーブメントは日本だけでなく、世界中で巻き起こっている。ここでは日本も含まれるアジア地域を中心に、eスポーツの最新事情を見ていこう。

世界規模で拡大するeスポーツ市場

 ゲーム市場やモバイル市場のマーケティングを行うNewzoo社の予測によれば、2018年のeスポーツ市場は、前年比38%増の9億5660万ドル。20年には14億ドルになると試算されている。すでに2022年に開催予定のアジア競技大会(中国・杭州)では正式メダル種目として選ばれており、少なくとも同大会では、サッカーやバスケットボールといったメジャースポーツと同等の扱いを受けることになる。

 また、PCゲーム『Dota 2』の公式大会「The International 2017」の優勝賞金の高さ(実に23憶円!)は、プロゲーマーのみならず世界中の目を惹きつけた。eスポーツは単なる娯楽の域を脱し、収益性の高い興行として、NBAのレジェンドであるマジック・ジョンソン氏による投資をはじめ、海外の実業家からも注目を集めている状況だ。

成熟期を迎えつつある韓国eスポーツ事情

 グローバルな展開を見せるeスポーツ振興を語る上で欠かせない国は、何と言っても韓国だろう。大会での実績や市場規模も含めて、日本のはるか上に位置する。韓国コンテンツ振興院によると、eスポーツ分野が占める韓国内の市場規模は日本円にして84億円に上る。日本ではeスポーツ市場をまとめた信頼性の高い数字自体がなく、大きな差がついている。

 この結果をもたらした要因は、日本と韓国におけるゲーム文化の違いが大きいだろう。今も昔も外国産のPCゲームが根強い人気を持ち続ける韓国では、「ゲームを遊ぶ=PCゲーム」という認識が大きい。街中には、PCゲームが気軽に楽しめる「PC房」という施設がある。日本でいうネットカフェのような立ち位置だが、韓国ではマンガを読むというより、ゲームを楽しむためのスペースになっている。

 メインでプレイされているタイトルは『League of Legends(LoL)』や『Dota 2』といったPCゲームで、学校や会社帰りの若い男性をはじめとした幅広いユーザーが日常的に立ち寄っている。高額な賞金が設定されるタイトルにはPCゲームが多く、この裾野の広さが、市場の拡大とプレイヤーの強さにつながっているのだ。

日本のeスポーツ文化振興、超えるべき壁は?

 その他のアジア地域では、3月には、香港でeスポーツシーンに携わるプロ選手が60人に到達したことが報じられた。また、前出のNewzooが予測するところによると、中国全体を見れば2018年に1億6400万ドルという市場規模になる見込みだという。約13憶の人口を抱えるスケールというものか、プレイヤーと試合を観戦するファンからなるプロゲーミングコミュニティは、日本の総人口を超える2億人とも言われている。

 そんな中で、数々のゲームを生み出し、世界中のプレイヤーを熱狂させてきた日本は、一般メディアに「eスポーツ」という言葉が踊るようになった今も、まだまだ発展途上というところだ。最大の原因として長らく語られてきたのは、「法律により、大会で高額な賞金を出すことができない」ということだが、今年になってJeSU(日本eスポーツ連合)が発足、プロ認定制度をスタートさせたことで問題は解消されつつあり、それ以前に「そもそも高額賞金を出すことは、法律上問題なかった」という話も出てきている。

 そんな中で残されている課題はやはり、ライト層〜ミドル層に、eスポーツの主戦場であるPCゲーム文化が定着していないことだろう。しかし、「ゲーム実況」の隆盛もあり、“ゲームを観て楽しむ”人々は確実に増えている。eスポーツシーンへのタレントの参入も加速しており、「ゲームはあまり知らない」という人々も巻き込みながら、競技性の高いタイトルへの関心と、プロを目指すゲーマーたちがプレイするインセンティブは少なくとも一定程度、高まっていくだろう。日本が“eスポーツ発展途上国”という地位から抜け出し、プロゲーマーたちが“ゲーム大国”の名にふさわしい活躍を見せてくれることに期待したい。

■龍田 優貴
ゲームの尻を追いかけまわすフリーライター。
時代やテクノロジーと共に移り変わるゲームカルチャーに目が無い好事家。
『アプリゲット』『財経新聞』などで執筆。
個人的なオールタイムベストゲームは「ファミコン探偵倶楽部」シリーズ。
Twitter:@yuki_365bit

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