『LOST10』の巧みな脚本に唸らされる “信じること”さえ疑わせる極上のサスペンス

『LOST10』の極上サスペンスの魅力

 だが、そんな二階堂夫妻の愛を補完する物語を想像したくなった矢先に、その感情を裏切るような行動をとるのもまたハルネらしくて笑ってしまう。彼女が向かったのは東京。二階堂が渋谷にマンションを所有しているというのだ。亜矢を犯人だと決め込む警察の捜査方針に抗う形で、小駒は直とともに東京へと乗り込む。そして、冒頭の防犯カメラへとつながるのだ。

 行方不明とされていたツアー客のひとり、門伝(兵頭功海)の姿がそこにあった。夫婦で参加していた門伝が、なぜ渋谷にいるのか。無事であるならば、どうして警察に報告しなかったのか。あれほどメディアで取り沙汰されている事故だ。自分たちの行方を警察が探していることを知らなかった、では済まないはず。そもそも、この登山ツアーの一行がどんな目的で集まったメンバーなのか……まだまだ明かされていないつながりが多すぎる。

信じたい人ほど、疑わしくなる

 そう、真実にたどり着くには、まだ見えていない事実がある。直がここまで熱心に保険調査員として仕事をする理由すら、私たちにはまだ見えていない。彼の人の懐にスッと入っていく姿に、私たちもどことなく彼を信頼している。けれど、その人当たりの良さや、仕事への熱意が、その人の本質を証明するものではないのもたしかだ。

 そういう意味では、乃々が入院する病院の小児科医である吉野(井口理)もまた、子どもの目線に立つ誠実な医師だという印象。だが、そうして信じたいという自分の気持ちさえも疑わなければならないのが、このドラマの怖さ。シンプルな犯人探しというミステリーの面白さだけではなく、視聴者自身の人を信頼する心理そのものを揺さぶる体験がある。信頼できる医師だと思うからこそ、乃々に母の死について「誰に答えてほしい?」と問う言葉に、妙な引っ掛かりがあった。そういう人なんだ、と流していいのか。それとも、その裏に何かがあるのではと疑うべきなのか……。

 それでも善良な人であってほしい、という願望にも似た形でその人を印象付けてしまうという点は、小駒の先輩である淡島(岩谷健司)も同じだ。淡島は、かつて直が介入したことで警察の面目が丸つぶれとなった「函館一家偽装心中事件」の捜査を担当していたという。その影響で、刑事としての華々しいキャリアは諦めざるを得なくなった。まっすぐな言動を繰り広げる小駒をたしなめるのは、かつての自分を重ねているからではないか。なんて勝手に物語を想像して過去をつなげたくなってしまう。

 疑わずにはいられない事実と、信じたくなる感情。山の中に比べて、街では人の目も、人の動きを追う記録も、桁違いに増えていく。その情報量の多さに圧倒されるのは、街で日常を過ごしている私たち視聴者自身の環境と変わらない。どの事実を、どの角度から見ていくのか。そして、疑い尽くした先に、どんな真実が残っているのか。

 そして、この疑いの連鎖をさらに怖くしているのが、ドラマを手掛けるプロデューサー・新井順子×監督・塚原あゆ子×脚本家・奥寺佐渡子という布陣への警戒と信頼だ。彼女たちが手掛けたドラマ『最愛』(TBS系)では、愛するがゆえの罪が切なく描かれた。今回も、お金の動きを追った先に、お金では説明できない思いが見えてくるのではないか。謎が解けたからといって、心が救われるわけではない。そんな胸が痛む展開への気持ちの準備もしなければならないのではないか、というざわめきもまた、静かに胸の底で波打っている。

■放送情報
金曜ドラマ『LOST10』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:横浜流星、小栗旬、中村アン、飯豊まりえ、井口理、岩谷健司、松下洸平、市川実日子、野呂佳代、斉藤由貴
脚本:奥寺佐渡子
演出:塚原あゆ子
プロデュース:新井順子
編成:荒木沙耶
音楽:ガブリエル・ロベルト
主題歌:Maya「LOST」(Sony Music Labels Inc.)
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/lost10/
公式X(旧Twitter):@lost10_tbs
公式Instagram:lost10_tbs
公式TikTok:@lost10_tbs

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