『ブラッサム』“珠”石橋静河と“保”金子大地を迎える札幌の温かさ 人との支え合いが希望に
NHK連続テレビ小説『ブラッサム』第29話では、珠(石橋静河)と保(金子大地)の札幌での新生活が始まる。保の大学卒業を待たずに東京を離れる決断をした2人。慣れない土地での暮らしではあるが、そこで出会った人々との交流を通して、珠は少しずつ新しい生活に馴染んでいく。
札幌では、保の親戚である木村正吾(三宅弘城)が2人のために広々とした借家を用意してくれていた。保も正吾の勤める銀行で働き始め、生活の基盤が整っていく。その晩、2人は正吾の自宅に招かれ、妻の浪江(杉田かおる)の手料理でもてなされる。
浪江は近いうちに近所の人々を紹介すると話し、「頼母子講(たのもしこう)」への加入を勧める。地域の人たちが少しずつお金を積み立て、半年に一度、誰かがまとめて受け取るという仕組みだ。まだ物もお金も十分ではない土地だからこそ、互いに助け合いながら暮らしてきたのだろう。
夕食後、後片づけを手伝っていた珠は、浪江の足袋に目を留める。何度も洗って繕われた跡があるものの、汚れ一つない真っ白な足袋。浪江によれば、すでに13年も履き続けているという。かつてはお金も物もない土地だったため、破れても大切に使ってきたのだ。
「倹約は生きる知恵よ」と話す浪江。単に物を節約するということではない。限られたものを工夫して使い続けることが、この土地で暮らしていくための知恵になっている。珠もその話を聞き、「右も左も分かりませんが、いろいろ教えてください」と改めて頭を下げる。13年もの間、大切に履き続けてきた足袋から、浪江の人柄や札幌での暮らしぶりが見えてくる場面だ。
一方、酒を酌み交わす保と正吾の会話も印象的だった。正吾は先ほど「親の務め」について口にしてしまったことを謝る。東京で2人に何があったのかは聞いており、配慮が足りなかったというのだ。しかし、保は「普通にしてもらえる方がありがたいです。きっと、珠さんも」と答える。
これまでの事情を知っているからといって、必要以上に気を遣われたいわけではない。保の言葉には、珠とともに新しい土地で普通の生活を送っていきたいという思いが表れているようにも感じられる。そんな保に、正吾は「辛い事のない人生なんてない」と語りかけた。
「朝起きて働いて、食べて寝て、また起きて家族で支え合って生きるんだよ」
ごく当たり前の日常を送ることが、つらい出来事を乗り越えることにつながる。正吾が伝えたかったのは、そういうことなのだろう。何か特別なことをしなくてもいい。毎日働き、食事をして、家族と過ごす。その積み重ねが、いつか傷ついた心を癒やしてくれるのかもしれない。東京での生活を離れ、札幌で再出発した珠と保にとって、何より微かな希望が見えてくる心強い言葉だったはずだ。
札幌での日々は、白い息を吐きながら井戸水を汲み、火を焚いて暖を取るところから始まる。浪江は珠を近所に住むクニ(山本香織)やトミ(泉希衣子)に紹介し、少しずつ交友関係も広がっていった。ある日には、タケ坊(竹林遼)という男の子が、母親からの差し入れとして鮭を届けにやって来る。
そこで珠は、タケ坊の着物の袖が破れていることに気づき、繕ってあげることに。女学校で裁縫を学び、岩国でも仕立て直しをしていた珠にとっては慣れた作業だった。そんな珠の腕前を見た浪江は、近所の人たちの仕立てを請け負ってみてはどうかと提案する。
珠はさっそく「御仕立、繕ひもの 承わります」と書いた半紙を戸に貼り出す。するとクニとトミから依頼が入り、その腕前はたちまち近所で評判になっていった。
ここで思い出されるのが、浪江が13年間も大切に使ってきた足袋だ。破れたところを繕い、物を長く使い続ける。そんな土地柄だからこそ、珠が身につけてきた裁縫の技術も重宝されるのだろう。珠自身も、これまで教師として働き、東京では小説家を志しながら、思い通りにならないことを何度も経験してきた。しかし、そうした人生の中で培ってきたものが、思いがけない場所で役に立っている。
正吾の言うように、朝起きて働き、食べて寝る。珠と保は札幌で、そんな当たり前の日常を一から築こうとしている。頼母子講にしても、浪江の足袋にしても、この土地に根づいているのは人と人とが支え合う暮らしだ。珠が始めた仕立ての仕事も、その輪の中に加わるきっかけとなった。何度もつまずきながら生きてきた珠が、新しい土地で自分の居場所を見つけ始めている。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、高良健吾、金子大地、赤堀雅秋、イッセー尾形、川島潤哉、中村優子、井浦新、遠藤憲一 ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK