『会社員』がドラマファンを惹きつける理由 吉田羊と南沙良が映し出す“組織のリアル”

 当初は斉藤と交渉するためにやむを得ず下に降りていた宮木は、第3話において、気づいたら斉藤に心を動かされ、やりきれなさを共有した末に彼女の言葉通り「自分の力を正しく使おう」と役員室に乗り込み、安西に抗議しようとしている。だが、そこには宮木と斉藤が必死で守ろうとしていたはずの寺田(加藤清史郎)が平然とした顔で立っていて、どこまでも「会社」という組織は底知れないということを、会社という「建物」そのものを通して描いてもいる。

 興味深いのは、そこで働く人々の人間像が、それぞれの登場人物の視点を通して、異なる角度で見えてくることだ。例えばオープニングで「会社員」というタイトルが表記される画面において、宮木を主軸に置いている第1話と斉藤を主軸に置いている第2話では同じ「宮木が寺田の診断書をシュレッダーで破棄した後」の光景でも見え方が異なる。第1話では、寺田のパワハラ問題への懸念よりも、長年の夢である「取締役昇進」の予感のほうが勝っている様子が伝わってくる宮木の勝ち誇ったような背中を映していた。第2話では斉藤が目撃した宮木の姿だ。診断書をシュレッダーした後にこともなげに同僚と談笑している彼女の横顔。寺田を心配する斉藤からすれば、どれほど悪役に見えた事だろう。悪役と言えば、優秀なシステムエンジニアである一方で、パワハラだけでなく性加害まで露呈したにも関わらず、会社に守られている山岸(小久保寿人)もまた、第3話で興味深い一面を見せた。

 宮木のプロジェクトの中核を担う存在として、主だったシステムの構築だけでなく、宮木の知らないところでデータの改竄もしていた山岸。無茶を言ってくる会社に対する必要悪だと言わんばかりの彼の言葉に対して「それでも食らいついてやり遂げてこそ仕事」と言う宮木の強さは、「そういうキャラですもんね」という山岸の言葉に脆くも崩れ、山岸が元に戻したことでよくない数値に戻った「未調整の」データを見つめる宮木は、欲しいものを突然失った子どものような表情を一瞬見せる。つまり、宮木の正しさは、黒い部分も担ってきた山岸によって支えられてきた一面があり、彼女はそれを含めて失ったのだということが分かるのだ。

 「会社」とは、「会社員」とは。働く人々にとって、日常の大部分を過ごすその場所で人々の「黒い本音」が渦巻く本作は、まるで他人事ではない。「会社のため」組織の理論に従って生きてきた宮木英理子と、全く対極の存在・斉藤るり。相容れない存在のはずだった「小娘」斉藤に自分が失った何かを呼び覚まされたかのように、自分のできることをしようと動き始める宮木。暗闇の中で手を組みつつある2人は果たして、明るいほうへ抜け出せるのか。

■放送情報
ドラマ10『会社員』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送(全8回)
※毎週木曜24:35~25:20再放送
※NHK ONEで同時・見逃し配信予定
出演:吉田羊、南沙良、加藤清史郎、小久保寿人、前川泰之、田中直樹、尾美としのり ほか
作:名嘉友美、松井周、あさか友恵、縦谷宗(WDRプロジェクト)
音楽:yuma yamaguchi
制作統括:上田明子、石村将太
演出:保坂慶太、大嶋慧介、西尾友希
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/wdr/

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