八嶋智人が『ブラッサム』で見せる“もう一人の父親”の顔 軽妙な芝居ににじむ人情味

『ブラッサム』八嶋智人“もう一人の父”の顔

 父・清治(渡部篤郎)の死を経て、珠(石橋静河)が代用教員として新たな一歩を踏み出したNHK連続テレビ小説『ブラッサム』。これまで珠の人生に大きな影響を与えてきたのが清治だったが、その一方で、幼い頃から珠を気にかけ、父親のように見守ってきた人物がいる。地元・岩国で商店「岩田屋」を営む岩田幸三だ。

 八嶋智人演じる幸三は、妻のカツ(楠見薫)、娘の梅(松本穂香)とともに葉野家と深い付き合いがあり、清治に振り回される珠たちを何かと心配してきた。珠にとって“もう一人の父親”とも言える存在である。

 八嶋は1990年に松村武らと劇団カムカムミニキーナを旗揚げし、舞台を中心にキャリアをスタートさせた。1999年には三谷幸喜脚本の『古畑任三郎』(フジテレビ系)に花田役で出演。さまざまな職業に就きながら事件の周辺に現れる、ユニークな人物を演じた。2001年には木村拓哉主演の『HERO』(フジテレビ系)で検察事務官・遠藤賢司役を務め、お調子者で憎めないキャラクターとして人気を集めた。

 さらに『水10!ココリコミラクルタイプ』(フジテレビ系)のコントに出演し、2002年からは高橋克実とともに『トリビアの泉 ~素晴らしきムダ知識~』(フジテレビ系)の司会を担当。軽快なトークと豊かなリアクションで、バラエティでもおなじみの存在となった。現在も劇団の舞台に立ち続けており、演劇と映像、バラエティを行き来しながら活動している。

 八嶋の持ち味として挙げられるのが、周囲の人物との掛け合いによって、作品の空気を動かす巧みさだ。『HERO』では個性の強い城西支部の面々に囲まれながら、絶妙なタイミングで会話に入り、時には大げさなリアクションで笑いを生み出していた。『トリビアの泉』でも、高橋とのやりとりや出演者の発言への反応が番組の面白さにつながっていた。自らが前に出るだけでなく、相手の個性を引き出す“受け”の表現にも長けた俳優と言えるだろう。

 一方、NHK連続テレビ小説『マッサン』では主人公・政春(玉山鉄二)と酒造りに励む八澤俊夫役を務めた。口が悪く、政春と衝突することも多い俊夫だが、仕事への誇りや仲間への思いは人一倍強い。八嶋はテンポの良いセリフ回しの中に、不器用な男の人間味をにじませていた。

 そうした八嶋の持ち味は、『ブラッサム』の幸三役にも生かされている。野菜や生活必需品を扱う岩田屋の店主である幸三は、近所の人々の面倒をよく見る世話好きな人物だ。清治の奔放な振る舞いに呆れながらも、何かと葉野家のことを気にかけている。八嶋の歯切れの良いセリフ回しや表情豊かなリアクションが、そんな幸三の親しみやすい人柄を引き立てている。

 幸三が珠にとって父親のような存在であることは、第1話から描かれていた。幼い弟妹の面倒を見ながら家の用事をこなす珠に、幸三は「働き者」と声をかけ、ハッサクを分け与えていた。また、清治の命令で雨の中を裸足で走る珠を見かけた際には、妻のカツとともに草履を履かせようとするなど、何かと気にかけている。

 そんな幸三の愛情がよく表れていたのが、第8話の嫁入りの場面だ。清治が決めた縁談を受け入れ、嫁ぐことになった珠。幼なじみの梅が晴れ姿を喜ぶ傍らで、幸三はまるで自分の娘を送り出すかのように涙を流していた。一方の清治は、特に感情を表に出すこともなく、先を急いでしまう。実の父親とは対照的に、別れを惜しむ幸三の姿が印象に残った。幼い頃から珠を見守り、その成長を喜んできたからこそ、込み上げるものがあったのだろう。普段は賑やかでコミカルな幸三が見せた涙には、血のつながりを超えた深い愛情が感じられた。

 清治との関係に悩みながら成長してきた珠にとって、幸三の存在は大きな心の支えになっていたのだろう。何か特別な言葉をかけるわけではなくとも、困っていれば手を差し伸べ、うれしいことがあれば自分のことのように喜ぶ。そんな何気ない優しさが、珠にとっての安心できる居場所をつくっていた。これから珠が故郷を離れ、広い世界へと歩み出していく中でも、幸三のように自分を見守ってくれた人の存在は、きっと心の支えになり続けるはずだ。

■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK

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