長谷川奈央×青木涼、『影を売る女』で向き合った“欲望” 「今日も私は照らされてる」

 シンデレラストーリーの誘惑に翻弄される平凡な女性の姿を通して、本当の幸せを問いかける映画『影を売る女』が10月16日より公開される。謎の男に「影」を売り、幸運を得る主人公・河合夕子を演じたのは長谷川奈央。本作が彼女にとっての単独初主演作だ。物語の鍵を握る「黒マントの男」を演じたのは青木涼。ふたりに話を聞くと、AIが答えを与えてくれる時代への違和感や、SNSでの過剰な自己演出への疑問など、作品が映し出す“現代性”が次々と語られた。「影をなくす」ことが示しているのは一体何なのか。彼らへのインタビューから一緒に考えていきたい。

長谷川奈央「夕子は自分みたいだなと率直に思った」

―—完成した作品をご覧になっていかがですか?

長谷川奈央(以下、長谷川):最初から最後までずっと出ているので、客観視できるかドキドキしていました。でも今回は没入感があって展開がどんどん進んでいくし、BGMもポップで軽快な曲があったりして楽しめました。お金が舞い込んでトイレで喜ぶシーンや、キャッチコピーが浮かばない上司から引き留められる場面も笑えるんですよ(笑)。

青木涼(以下、青木):僕は観終わったあとに、自分の影が愛おしくなりました。それぐらい主人公・夕子に自分の人生を“投影”してしまって。「自分も影を売る瞬間がなかったかな?」と少し恐ろしい気持ちになるような、心を映し出す鏡を見ているかのような感覚がありました。年齢も性別も違いますが、夕子の悩みに共感できるところがあるなと。

長谷川:ラストにかけての展開は、改めて「本当に大変なことをしてしまったんだな」と。その代償の大きさを目の当たりにして、心に響くものがありましたね。エンドロールで流れるメインテーマ「影を売る女」の歌詞からじわっと伝わってくるものがある。初号試写で「こういう作品だったんだ」と手応えを感じられて安心感が強かったです。

―—どのように役作りをされたのかも気になります。

長谷川:脚本を読んで「夕子は自分みたいだな」と率直に思いました。自己実現が叶うのなら、影を売ってしまうかもしれないし、「最高」っていう気持ちにもなってしまうなと。また、20代後半にかけて女性が抱くような焦りを持っていた時期が、私自身にもありました。「今のままじゃいけないんじゃないか?」という焦りって勝手に出てくるんです。だから夕子の気持ちも自然と理解できました。物事が上手くいかない理由を環境のせいにしたり、若手に対して嫉妬や劣等感を抱いたりする部分も共感できます。劇中の環境を自分の身近なものに当てはめたら、普段の自分と重なる部分もありました。だから現場でも「夕子だからこう」と作りすぎずに自然体な演技を意識しました。

―—青木さんは、あの黒マントの男をどう解釈していったのでしょうか?

青木:赤羽博監督やプロデューサーと相談をしながら、一緒に作り上げていきましたね。誰にでも起こりうる出来事として観てほしかったので、このキャラクターというよりも普遍的な存在として受け取ってもらいたかったんです。黒マントの男ってある意味、夕子の心の影でもあるんですよ。「お金を得たい」「彼氏がほしい」という誰もが持つ欲を狙う存在としてのリアリティをどう出すかが課題でしたね。目には見えない人間の正しい心と間違った心を、自分を通して考えてもらえるような演技を目指しました。彼は既に身なりが怪しいので(笑)、味付けはせず、夕子の心をどう狙い、どう落とすかを意識しました。特にカメラに向かって「あなたの影を売ってください」と話すシーンは、画面越しの観客に問いかけるような感覚で演じました。

スタッフの言葉で気づかされた“影”の本質的な意味

―—影を剥がすシーンはどうやって撮影したのでしょうか?

青木:透明なビニールを影に模して3パターンほど試して撮りました。でも結局は自分がそれを受け取っているかが全部伝わってしまうので、イメージが大切なんですよね。ビニールに頼ってはいけないというか、自分がどう処理するかで影の質感が決まってしまうという恐ろしさがありました。だから影の質感やビリビリ感がどんなものなのか打ち合わせしつつ、何百回と影から壁を剥がす動作をプロデューサーにチェックしてもらいましたね。

―—長谷川さんは「自分の影がない」という設定ですが、撮影のときに意識したことはありましたか?

長谷川:それが、私自身は何もできることがなかったんです。照明さんやカメラマンさんは影を強く濃く出すように調整したり、逆になるべく光を当てないようにしたりと、周りのスタッフの皆さんが本当に大変だったと思います。ヘアメイクさんも前髪の影が顔にかかるのでまとめてくれたり。そのうえで豪華にも見えるように装飾品でかわいらしくしていただきました。私は「すみません」と謝りながら、ただ見守ることしかできなくて……。

―—髪の毛の影も「自分の影」なんですね。

長谷川:そうなんですよ。影って色々な部分にできるんだなと今回の撮影で学びました。

青木:スタッフさんの「影は消せません!」という言葉が印象的でしたね。でも考えてみれば、それって本質的なことじゃないですか。切っても切れない、絶対になくなることはない、自分の身近な存在のひとつなんですよ。あの言葉を聞いて自分も気づかされました。

―—運動会のシーンで影に囲まれる場面も、影だけがうまく出る角度でよく撮ったなと思いました。

青木:ひとりだけ影がないという、異様な場面なんですよね。浮いている感じというか、そこにいない感じというか。改めて「影がない」ということの奇妙さが現れていると思います。

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