『風、薫る』は挑戦の朝ドラだった りんと直美の蒔いた“種”が現代につながった最終回

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』が9月25日に最終回を迎えた。

 りん(見上愛)が執筆した看護の実用書『実践看護法』の発売日を迎え、島田(佐野晶哉)はまるで“あの頃”のりんと環のような炊き出しを求める親子にチョコレートと本を手渡す。「双六の目から外れた人も生きていけるように変えてください」――かつてりんが卯三郎(坂東彌十郎)に訴えた社会の縮図=女子の双六も大きく変容した。マス目には環(瀧七海)の職となった絵師に、看護婦もある。上がりは「一家団欒」。今の一ノ瀬家のようだ。

 身体にガタがきているりんと直美(上坂樹里)は、“引退”の2文字を匂わせながら、いつもの縁側へ。そこに現れる真風(研ナオコ)。彼女が「2人が起こした風はこの先、遠くまで吹き続けるよ」と告げると、すぐにツヤ(東野絢香)が日比谷のデモで怪我人が出ていると知らせにやって来て、2人は看護服で現場へと走り出していく。まだまだ現役。2人が縁側でゆっくりできる日は先のようだ。

 驚くのはタイトルバック終わり、残り2分半の展開だ。舞台は令和の現代。女性患者の処置をするりんと直美そっくりのながみ(見上愛)としばた(上坂樹里)の看護師がいる。そこで2人が見つけるのは、ベッドの下に大事そうに置かれた患者の真新しい靴。カンファレンスルームで医師たちに、彼女を外出させることはできないか、とながみとしばたは相談する。尊重したいのは、彼女のあの靴を履きたいという気持ち。屋上庭園で2人が横につき、なおかつリハビリで混み合う時間は避ける、という条件下でなら許可が降りた。患者は車椅子に押され、明るい扉に向かって廊下を進んでいく――。

 この現代パートが示しているのは、明治という激動の社会でりんと直美が蒔いた種=風媒花が、現代でも芽吹き、花を咲かせているということだ。りんは「看護とは何か」の一つの答えを、「今、そこにあるもの」だとしていた。患者が困っていて看護婦が必要だと思えばそれは歌でも何でも全て看護であり、答えは今、目の前にいる患者と看護婦の中にしかないのだと。しかし、どんな理想の看護も正しい看護技術の積み重ねの上にしかなく、看護の精神は現場で教えていくのが一番だと、実用書には明記しなかった。けれど、それは自然と現場レベルで受け継がれている。看護婦は看護師という呼び名で、男性看護師も珍しい存在ではなくなった。「道をはずれた人から、いつも道は生まれた。」というキャッチコピーにあるように、りんと直美が道標となった先の未来で、我々は生きているのだということを改めて実感させる。

 『風、薫る』は挑戦の朝ドラだった。それは2人の主人公によるバディドラマという、これまでにない珍しい形での朝ドラだということ。「看護とは何か」という問いかけ自体もそうだが、「正しいとは何か」が常に問われる正解のない女性の生き方、医療のあり方が描かれてきた。りんと直美もまた間違える主人公だった。それでも正しいと信じながら生き抜いた先にあったのが双六のマス目にある社会、そして令和へと続く看護のあり方。2人の主人公で描いた『風、薫る』は、朝ドラとして新たな道を切り拓いたはずだ。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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