中村倫也が『風、薫る』でみせる成熟した演技 “朝ドラ”とともに躍進した軌跡を辿る

 以降、数多くの映画やドラマで場数を踏んだのち、『ブギウギ』(2023年度後期)にテレビディレクターの沼袋勉役で事前予告なしに登場したのも嬉しいサプライズだった。沼袋はサングラスにモジャモジャ頭で、ダジャレを次々と繰り出すキャラクター。振り切ったコメディ演技で視聴者を沸かせながらも、どこか本心の見えない胡散臭さを巧みに忍ばせる。その一筋縄ではいかない人物造形こそ、中村の真骨頂と言えるだろう。

 中村は演じる役柄の感情や行動の動機について、明確な“答え”を提示しない俳優だ。瞬き一つ、間の一つにも意味を含ませ、観る者に考える余地を与える。観る者は心に留まった表情や仕草を延々と反芻し、「あのとき、何を考えていたのか」「本当はこういう人なんじゃないか」と、どうにかその人物の本質に迫ろうとする。それは、映画『ラストマイル』のように現実と地続きになった社会派エンターテインメントであっても、『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS系)のようにフィクション性の高い作品であっても、変わらない。没入度の高い演技で作品世界へと引き込み、物語が終わった後も観る者の心に問いを残す。だからこそ、中村の出演作は長く語り継がれるのである。そう考えると、作品の命運を左右する役どころが中村に託され続けるのも納得だ。

 今年上半期だけでも『DREAM STAGE』(TBS系)、映画『君のクイズ』の2本で主演を張るなど、いまや押しも押されもせぬ実力派俳優となった中村。そんな彼が満を持して『風、薫る』に登場することに、特別な期待を寄せずにはいられない。中村は出演にあたって、「演じる柳生という男は、『社会全体の利益』という視点をもたらす存在だと聞いています。共に『社会』というものを、もう一度見つめ直すきっかけになれれば嬉しく思います」とコメントしている(※2)。これまで、りんと直美は目の前の患者を救うことを第一に行動してきた。年齢的にも自身の将来や家族、身近な人との問題に向き合うタイミングであり、それだけで精一杯だったとも言えるだろう。そこに柳生という存在が現れることで、2人の視点が「個」から「社会」へと大きく広がっていくのではないだろうか。

 本作の放送も残すところ、あと3分の1となった。どうしても中だるみしがちな時期だが、朝ドラへ出演するたびに進化を遂げ、今まさに俳優としての成熟期を迎えつつある中村がまた新しい風を吹き込み、物語全体を引き締めてくれるに違いない。

参照
※1. https://www2.nhk.or.jp/archives/articles/?id=D0009123149_00000
※2. https://www.nhk.jp/g/ts/XWRG4KR6Z2/blog/bl/pzA9jOD69z/bp/prx7kdDRMa/

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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