井上祐貴、『風、薫る』新潟編のキーマンに? 『べらぼう』『虎に翼』で培った表現力に期待
NHK連続テレビ小説『風、薫る』は第16週「新風吹くころ」から舞台が新潟に移る。看護婦として大きな挫折を経験したりん(見上愛)は、大山捨松(多部未華子)から紹介された女学校の舎監として、新潟県上越市で仕事をすることになった。心機一転、新しい土地に移り、自分自身を見つめ直すりんが出会う気になる存在、それは井上祐貴演じる新聞記者の横沢公輔だ。
新聞記者の横沢は何かとりんのことを気にかけるようで、押しが強く信念をもったキャラクターとして紹介されている。公式ホームページでは「自分の信念に従い、後先考えずに行動してしまうところがある」という表現になっているが、猪突猛進タイプのようだ。
井上祐貴といえば、2024年度前期の連続テレビ小説『虎に翼』で演じたヒロイン寅子(伊藤沙莉)の夫で判事の星航一(岡田将生)の長男・星朋一役が印象的だった。法律を学ぶ大学生の優等生然とした顔と、父親との確執、家庭においてどこか居心地の悪さを感じている満たされない表情。知的で、育ちの良さを滲ませながらも、複雑な心情を持つ役柄を演じて話題となった。
また、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で演じた松平定信役においては、生真面目さの裏にある不器用さや弱さ、人間味あふれる感情も丁寧に演じていた。これまで厳格な改革者として固定されたイメージで描かれがちだった定信だが、自分の信念に従い世の中を良くしたいと純粋な志で突っ走った結果、己の未熟さや矛盾に打ちのめされるという内面の弱さまで表現されたことも共感を呼んだ。
とくに第36回では、改革を風刺する黄表紙の存在に気づいた定信は、言論規制の強化に乗り出していく。定信にとって恋川春町(岡山天音)の死は、自分の行き過ぎた言動を後悔しただけでなく、自分の信念の強さが引き起こした罪の重さに押しつぶされそうになるという忘れられないシーンとなった。布団に顔を押し当て、声を殺しながら感情を爆発させて一人慟哭する姿は生真面目さの裏側にある不器用で、弱い内面の象徴だった。
恋川春町の作品が好きで、黄表紙という自分の楽しみを自ら出した出版統制令で奪ってしまった定信。ユニークな作風で人気の黄表紙を刊行していた春町だが、本人は繊細で真面目な性格で、主君に迷惑をかけるようなタイプではなかった。
春町は、主君の松平信義(林家正蔵)が劇作家・恋川春町の正体だと定信に誤解され、信義にこれ以上迷惑がかかることを恐れた。信義が家中の倉橋格こそは春町の正体で、倉橋格は後悔のあまり病気になり、隠居したと定信に説明するが定信の怒りを抑えることはできなかったのだ。
定信は信義を責め、自ら春町の屋敷を訪ねると言い出した。信義は春町に重い処分が下されるに違いないので、逃げるよう勧めた。追い詰められた春町はこのままでは小島松平家、倉橋家だけでなく、蔦重(横浜流星)や劇作家仲間にも影響が及ぶかもしれないと思い悩み、切腹を選んだ。
井上祐貴、『べらぼう』松平定信は完全なるハマり役に 秘めた感情や心の揺れを巧みに表現
『べらぼう』で松平定信を演じる井上祐貴。大真面目な信念の裏にある、春町を死なせた無念さなど、厳格さだけではない心の揺れを繊細に表…『虎に翼』の朋一にしても、『べらぼう』の松平定信にしても井上祐貴は、堅実で品格があり、信念を貫く強さも持ち合わせているが、単純ではなく葛藤しながら進む人間味あふれる複雑な人物を演じてきた。今回の『風、薫る』の新聞記者・横沢公輔は予告を見ると「異義あり! 問題あり!」と声をあげている。間違っていること、問題はあると感じることに対して黙っていられないタイプかもしれない。
りんは再婚を全く考えていないと公言しているし、シマケンこと小説家志望の島田健次郎(佐野晶哉)や幼なじみの虎太郎(小林虎之介)の分かりやすい熱烈なアプローチも常にさらりとかわしている。シマケンはどこか夢みがちな、りんに対しても自分の理想に当てはめて地に足がついていないところが頼りない。
一方、虎太郎は子どもの頃からのりんとの距離感を強く意識していたこともあり、東京でりんが看護婦になるなら自分は製薬会社で出世したいと肩に力が入りすぎ。元家老の娘と足軽の息子という身分に差があったとはいえ、東京で再会してからの方が逆にりんの気持ちに寄り添えなくなっているのが切ない。
そんな中で登場する横沢公輔は、りんにどんな影響を与えるのだろうか。少し子どもっぽいシマケンや虎太郎にはない大人の魅力を見せてくれるのだろうか。井上祐貴が演じる横沢の活躍に期待したい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK