“介護映画”がなぜいま急増しているのか 『急に具合が悪くなる』『廃用身』などが映すリアル

 また、1983年にカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『楢山節考』は、姥捨山を大きなテーマに、口減しとして老人や子供を掃いて捨てる、埋める、売るなどを選択する家族や、そんなコミュニティの中の資本の分配を描いた作品であり、それでもこの作品ではケアする側の苦悩や社会システムではなく、自らを山に置く美徳としてケアされる側の自己犠牲の尊さが重視されている。ちなみに、1983年の時点で日本の高齢化率は10%以下であり、現在の30%近い高齢化率とはかけ離れた数値に留まっている。こうした背景もあいまって、かつての邦画の中の「介護」のまなざしは主に家庭や家族の中に終始するか、村単位のコミュニティにおける内内の問題として扱われるのみであった。

 もちろん「介護」とは高齢者だけを扱うわけではないが、そうしたコミュニティにおける高齢者の描かれ方や「介護」の意味や意義などは、グローバル化や個人の意思の尊重、医学の進歩、健康寿命の変化、少子高齢化の加速に伴って徐々に形を変えてきたのだ。それはすなわち、誰にとってもいつそうなるのかわからない、他人事ではないもっともプライベートな課題であると同時に社会全体の問題なのである。ゆえに、ケアする側とケアされる側、介護する側と介護される側、お互いの生活や人生の質を重視するにあたって表れた現代特有のテーマが「介護映画」に繋がり、それは現行の社会システムと共に普遍性を帯びてきている。

『急に具合が悪くなる』©2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula & Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

 また、第79回カンヌ国際映画祭最優秀女優賞にも輝いた『急に具合が悪くなる』でも描かれたように、これは決して日本国内だけの問題ではないのである。実際にヨーロッパでも高齢化率はぐんぐん上がってきており、『急に具合が悪くなる』の舞台となったフランスも近年は出生率が急激に低下しているなど、「介護映画」は世界でも現実的な課題を扱う作品であり、今後も注目度の高いテーマになっていくと考えられる。

 そして特に、少子高齢化や資本主義を生きている私たちが、次の時代に備えて、どんな未来を選ぶべきかを議論する場として映画それ自体が大きな機能を果たしている『急に具合が悪くなる』では、現状への悲観的な警鐘だけではなくそれでも理想を求めることが強く描かれた。結局、ここまで発達してきたAIもオンラインもリモートも、今のところ、介護の現場ではなんの役にも立たない。コロナ禍以降の肉体への回帰、1人でも生きられる時代のコミュニケーションと言語や人種を超えたつながりは希望に溢れた願いであり、それがこうして世界中で評価を受けている。

『90メートル』©2026 映画『90メートル』製作委員会

 このように「介護映画」は少子高齢化を自虐的な話題として提示するだけではなく、テーマとして新たな答えや表現を模索する段階へ入っている。また1つあえていうのなら、「介護映画」において、介護施設や介護に係る費用に対する、支払う側の金銭的実態や貧困にまで深くアプローチする作品はいまだ極端に少ない。年金支給率の低下と少子高齢化の一途をたどる上では、将来的にはより大きな問題となるそうした部分やジャンルの横断も含めて「介護映画」はこれからも様々な広がりを見せながら、これからの邦画が現代を扱う上でリアリティを伴うには「介護」というテーマは切っても切り離せないものになっていくだろう。

■公開情報
『急に具合が悪くなる』
全国公開中
出演:ヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代
監督・脚本:濱口竜介
原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)
配給:ビターズ・エンド
提供:Soudain JPN Partners
製作:Cinefrance Studios、オフィス・シロウズ、ビターズ・エンド、Heimat Film、Tarantula
フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作/196分/カラー/1.5:1
©2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm
– Tarantula & Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners
公式X(旧Twitter):@FilmAOAS
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/soudain/

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