“介護映画”がなぜいま急増しているのか 『急に具合が悪くなる』『廃用身』などが映すリアル

 2026年の邦画は「介護映画」が急増している。

 1月には『安楽死特区』、3月には『90メートル』などが公開。さらに、5月と6月には『廃用身』、『遺愛』、『急に具合が悪くなる』が立て続けに公開されており、これらは同様に「介護」をテーマに扱っている。このように、今年に入って多くの作品がごく短期間のうちに「介護」を軸にしながら、それぞれのスタイルで現代が抱える問題の再定義や未来へのアンサーを次々に表現している。

 そもそも、少子高齢化や介護士不足は国の慢性的な問題であるがゆえに「介護映画」という存在そのものは特段珍しいものではないのだが、20年代前半の「介護映画」と昨今の「介護映画」を比較してみると、その問題の取り扱い方にも少しずつ変化が現れてきている。

『PLAN 75』©︎2022『PLAN 75』製作委員会 / Urban Factory / Fusee

 例えば、『PLAN 75』(2022年)、『ロストケア』(2023年)などにおける介護問題の描き方は、未来に対する警鐘としてのifや悲劇的な行末としてのディストピアを提示するといった俯瞰的な作風である一方で、2026年の「介護映画」は介護それ自体に対して、より当事者としての実感を伴った個人個人のプライベートな問題へと視点が動いているのだ。

 『安楽死特区』はターミナルケアと社会不安へのアンチテーゼにとどまらず、安楽死を実際に試みた人のインタビューを差し込むことでより具体性をもった生き方の問題に踏み込んでいる。『90メートル』はヤングケアラーの息子と母親の物語でありながら、青春の喪失だけではなくその再出発とそれを周りで支える人々をヒューマンドラマとして温かく描写している。『廃用身』は介護負担軽減のために麻痺などで動かない老人の手足を切断という選択を提示することによってブラックジャックのような生命倫理を問うドラマとなっており、『遺愛』は在宅介護の孤独や認知症による記憶、自己の喪失をプライベートな視点からスリリングに描き介護問題をホラーへと派生させている。そして『急に具合が悪くなる』は介護施設のマネージャーとして働く女性と末期のがんを抱える劇作家の女性の交流を通して、少子高齢化などを招いた資本主義への懐疑的なアプローチや現状の社会システムの解剖を行っている。

 このようにして、それぞれの作品が「介護」を中心にすえながら未婚率の上昇、介護士不足、終末医療、延命治療、健康寿命など、現代の社会問題を複合的に反映して内側から現実的で具体的なアンサーを提示している。また、特に2019年の老後2000万円問題に始まり2024年から新制度が導入された積立NISAの拡充と国からの大きな推奨など、年金制度の破綻や将来への不安と閉塞感がますます具体的になりつつあるコロナ禍以降において、少子高齢化やこれまでのシステムの崩壊が誰にとっても完全に他人事ではなくなってきているというタイミングは昨今の「介護映画」の急増やより私的な焦点への移行と関わりの深いものであると考えられる。そして、それらは問題提起に留めていい段階でももはやなくなっている。

『廃用身』©2025 N.R.E.

 このように、現代においては「介護」そのものが社会全体と密接に繋がっているからこそ、今後も邦画において「介護」という要素は当然の前提としてますます広がっていくであろう。そもそも邦画の歴史を辿れば「介護」という視点は全く異なる形で受容されてきたのだから、こうした流れは時代と共に新たに生み出された、邦画シーンにおける大きな転換点にもなりうる。

 例えば、英国映画協会の発行する映画雑誌『サイト&サウンド・マガジン』が発表する「史上最高の映画100選」で2012年に第1位に選ばれた『東京物語』(1953年)では、高齢の母が危篤になり病に臥すというシーンにおいての「介護」とは最後をいかに看取るか、家族がどのように送り出すのかというポイントのみに焦点が当てられている。平均寿命も当時は60歳前後であった上で、もともと戦後の邦画はそういった人生の侘しさ、ままならなさに宿る美学と意識から始まっている。

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