『Tシャツが乾くまで』は“好き”を問い直すドラマに “フィルター”が崩れた衝撃の幕開け
「“好きな人フィルター”ですっけ? 掃除した方がいいですよ」
初回から、思いっきりカウンターパンチをくらった。金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(TBS系)という作品に対して、こちらは思いっきり“好きな人フィルター”がかかっていた自覚があったからだ。
脚本は『silent』(フジテレビ系)、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)で注目を集めた生方美久。監督は『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)、『カルテット』(TBS系)などを手掛けてきた土井裕泰。そして、蒼井優を主演に迎え、主題歌はスピッツが歌う……この並びが実現したことだけで「幸せ」とニヤけてしまった視聴者は少なくなかったのではないだろうか。
実際、第1話の滑り出しはあまりにも心地よかった。主人公の咲子(蒼井優)がキッチンに立つ。その表情は実に穏やかで、料理が好きなのだと伝わってくる。すると、夫の充(松山ケンイチ)が軽い足取りで階段を降りつつ、エアコンの掃除を終えたと報告する。当番制を作らなくても、お互いが気づいた家事を手掛ける理想的な暮らし。
日常的な掃除にエアコンのフィルターを洗って干すところまで含まれている夫なんて「できすぎだ」と揶揄したくなるほどだ。きっと咲子は、そこまでは含まれていない側の人だろう。だから、充がやってきた。それがわかるのが、洗濯機の乾燥機能が不調になったときのやりとりだった。
充が咲子に「勝手に直るんじゃない?」と話していたことから、いつも咲子がその不調の原因までたどり着く前に、充がフィルター部分を掃除して、この「ラクで、楽しい」快適な生活を回してきたのだとわかる。だから、咲子にとって充は、結婚してもなお好きが増していく相手だったのだ、とも。
一方で、樹生(中島歩)とあずさ(夏帆)の暮らしもまた、その細かな描写から夫婦の実情が見えてきた。あずさはシワやヨレを気にして、Tシャツの襟や肩の位置を考慮しながらハンガーにかけ、整然と物干し竿に並べたのだろう。その順番にも、風通しの良さや日当たりに気を配っていたに違いない。だが、樹生はその乾き具合を確かめようと手に取り、ぐしゃっと触ると適当に竿に戻す。
ここで『Tシャツが乾くまで』のタイトルが出る。ここまで、ものの数分だ。咲子が見ている理想的な暮らしと、樹生が見えていない現実的な暮らし。そのギャップはともすれば息苦しさを生みそうだが、どこかフィクションの物語の世界へと誘われるような柔らかな光で彩られる。
現実ならば誰も見ていないような部分にフォーカスが当たり、一つひとつの動きの先に生まれてくる感情を予感させる。そんな繊細な作りに「やっぱり好きだな」と、ますます好きな人フィルターがかかる感覚があった。咲子が充に対して、ずっと好きが更新されていったように。しかし、それはひとつの映像の、ある限られた視点での話だったのだと気づかされる。そんな第1話だった――。
結婚情報誌の編集部に勤める咲子は、毎月第三金曜日に校了日の山場を迎える。クタクタになって帰ると、優しい夫が抱きしめてくれる。喫茶店の店長である充は、残ったフィナンシェを咲子のために持って帰ってきてくれる。甘くて、柔らかくて、心地よいこの生活はずっと続く、そう思っていた。