『風、薫る』“ツヤ”東野絢香に迫る限界に不安 「What is nursing?」に再び向き合うりん

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』第64話では、喜代(菊池亜希子)が久しぶりに病院へやってくる。りん(見上愛)や多江(生田絵梨花)たちにとっては懐かしい再会であり、ツヤ(東野絢香)にとっては少し特別な再会でもあった。喜代は、ツヤが看護婦になりたいと思うきっかけになった人だったからだ。

 喜代は、伝道している教会の人が入院したため、見舞いに訪れていた。久しぶりの再会にりんたちは喜ぶが、その中でもツヤの表情はひときわ明るい。自分が目指す道の入り口にいた人と再び会うのだから、無理もない。誰かが誰かの背中を見て、次の道へ進もうとする。看護が受け継がれていくとは、こういうことでもあるのだろう。

 一方で、ツヤはかなり無理をしている。病院で働きながら、仕事の合間や終業後に授業を受けているのだ。りんはその様子を心配し、少し休んだほうがいいのではないかと声をかける。だが、ツヤにとっては、看護婦取締のみなが無理を通してくれたからこそ得られた学びの場である。簡単に休むわけにはいかない。看護婦になりたいという憧れが、ツヤを前へ進ませる一方で、少しずつ彼女を追い詰めてもいた。

 りんが気にしていたのは、喜代がツヤに「看護婦になれなかった」と話していたことだ。千佳子(仲間由紀恵)に夜通し付き添っていたりんの姿を見て、喜代は素敵だと思ったという。けれど、そこで見えてくるのは、看護婦になることだけが看護ではないということでもある。喜代は、仕事として看護をするよりも、奉仕の中で看護に関わるほうが自分に向いていると考えていた。

 だからこそ、喜代は「ツヤさんのこと少しだけ気をつけてあげて」とりんに告げる。喜代自身も、看護に惹かれながら、自分には別の形が合っていると感じた人である。だからこそ、看護婦になりたい一心で無理を重ねるツヤの姿が、少し危うく見えたのだろう。

 団子屋では、直美(上坂樹里)がシマケンと偶然出会う。どうして小説家になったのかと尋ねると、シマケンは子どもの頃は病弱で外に出られず、物語の中であれば遠くへ行けたのだと答える。りんに手を差し伸べられた時にも見えたが、シマケンはどこか現実の不自由さを知っている人でもある。だからこそ、物語の中で自由になろうとしたのだろう。

 そんなシマケンに、直美は「シマケンの書いた物語の中にりんは?」とカマをかける。すると、シマケンはすっかり表情に出てしまう。相変わらずわかりやすい。直美は「健闘をお祈りします」と言い、自分に手伝えることがあればすると伝える。からかっているようで、ちゃんと応援しているのが直美らしいところだ。

 もっとも、直美が団子屋に寄ったのは、シマケンの恋心を確かめるためではない。看病婦と看護科の生徒たちの関係を少しでもよくしようと、団子を用意していたのだ。直美なりの気遣いであり、優しさである。だが、フユ(猫背椿)には「これで仲を取り持とうとするなんて甘い」と言われてしまう。確かに、団子ひとつで関係が変わるほど簡単な話ではない。けれど、何かをしようとする直美の不器用な歩みもまた、彼女なりの変化ではある。

 第64話で描かれているのは、看護の線引きでもある。ある日、ヒデ(池田朱那)がベッドのシーツを整えていると、患者から手紙を出してきてほしいと頼まれる。ヒデは、それが看護の仕事に含まれるのか迷っていると、近くにいたりんが、代わりにその頼みを引き受ける。

 そこでヒデが口にするのが、「それは看護なんですか?」という疑問だ。患者の頼みを聞いてあげたい気持ちはわかる。けれど、手紙を出しに行くことまで看護婦の仕事なのかと考えると、たしかに簡単にはうなずけない。りんの行動は優しさから出たものだが、ヒデが立ち止まったのも無理はない。

 ただ、りんにとっては、患者の小さな頼みを聞くことも、目の前の人を見ることの延長にあるのだろう。苦しんでいる人、心細い人が何を必要としているのかに気づく。それは、これまでりんが学んできた看護の大事な部分でもある。ここでりんはまた「What is nursing?」という問いに頭を悩ませることになる。

 そして、喜代の不安は現実のものになる。仕事中のツヤが、めまいでふらついてしまうのだ。看護婦になりたいという思いは、ツヤを前へ進ませてきたが、その強い思いが、彼女自身の体の悲鳴を見えにくくしていたのかもしれない。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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