『田鎖ブラザーズ』の面白さの本質は“考察”ではない 復讐劇が私たちに問いかけたもの
しかも忘れてはならないのは、そこに関与してくる者たちが皆、兄弟にとっては子どもの頃から知っている信頼の置ける大人たちばかりであるという点だ。真相に近付けば近付くほど、その信頼はぐらぐらと揺れ、やがて崩れて、兄弟は深い苦悩や孤独感を抱えることになる。第8話で明らかになった両親を殺した犯人の正体とその顛末。はたしてあの人物がああならなければ、兄弟は長年の願い通りに復讐を果たすことができたのだろうかと考えずにはいられない。これもまた津田の時と同じように、兄弟を復讐という愚かな行為に走らせないための導きのようなものなのかもしれない。
とはいえ前回の第9話で、実行犯を差し向けた“指示役”の正体がわかり、その背景にあった事情がほとんど判明する。兄弟は密造銃を相手に向け、復讐を果たす一歩手前のところで最終話に持ち越されることとなった。これが単純な犯人探しと復讐の物語であったならば、最終話で描かれても何らおかしくないストーリーが、その一つ前のエピソードで描かれる。もう一捻りあるということか、あるいはドラマの主眼が別のとこにあるということか。
いわゆる“考察”が捗るタイプのドラマではあるが、殊更に視聴者にそれを促そうとしていないところがこのドラマの優れている点であり、それを踏まえれば前段の疑問は後者を選択したくなる。両親殺害事件の真相という一本の大きな根幹をたどりながら、サイドストーリーとして描かれてきた現在の時間軸上で起こるさまざまな事件は、兄弟に復讐とはどんな意味を持つものなのかを立ち止まって考えるための余地を与えつづけてきた。このドラマが見せたいものは、考察の答え合わせなどではなく、“人が人を裁くこと”の重さに他ならないのだろう。
最終話に残されたものは――先述の流れのなかで兄弟が引き金を引くのか否か、も含め――、兄弟にずっと協力してきた晴子(井川遥)が何を隠しているのか。もちろんそれをもって、ここまで作り上げてきたあらゆる流れが大きく変わってしまう可能性も捨てきれないわけだ。いずれにしても、田鎖兄弟の絆だけは揺らぐことはないという確信にも似た希望がある。冒頭で触れた「ローマの信徒への手紙」12章は、このような節で締めくくられている。「悪に負けてはならない。善をもって悪に勝ちなさい」。兄弟の復讐の旅路は、おおよそハッピーエンドではないかもしれないが、限りなく穏やかなところに収まってくれると信じたい。
■放送情報
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:岡田将生、染谷将太、中条あやみ、宮近海斗、和田正人、飯尾和樹(ずん)、長江英和、山中崇、仙道敦子、井川遥、岸谷五朗
脚本:渡辺啓
音楽:富貴晴美
主題歌:森山直太朗「愛々」(ユニバーサル ミュージック)
演出:山本剛義、坂上卓哉、川口結
プロデュース:新井順子
撮影監督:宗賢次郎
編成:高柳健人、吉藤芽衣
製作:TBSスパークル、TBS
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