『風、薫る』“安”早坂美海から目が離せない! 恋と家族をめぐる葛藤を見事に体現
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第12週「旅立ち」では、これまでともに学んできた看護婦養成所の仲間たちの卒業と、それぞれの旅立ちが描かれる。これまで互いの思い悩みに寄り添ってきたりん(見上愛)と直美(上坂樹里)の次の選択も気になるところだ。
帝都医科大学附属病院で過ごす残りの時間も少なくなるなか、一ノ瀬家でもうひとつの“旅立ち”が描かれるかもしれない。それが、りんの妹・安(早坂美海)の結婚だ。シマケン(佐野晶哉)の仲介によって、槇村(林裕太)の兄・宗一(上杉柊平)との縁談が進んだ安は、とうとう両家の顔合わせの日を迎える。りんにとっては初めての家族の門出になるのか。彼女が看護婦養成所で寮生活を営むなか、美津(水野美紀)や環(英茉)と過ごす時間の長かった安がいなくなるとすれば、一ノ瀬家にも少なからず影響を与えることは間違いない。
第48話では、宗一との運命の出会いを聞き、「それで、いつ祝言を」とりんに問われた際は「別に急がなくても……」「3人を置いて私だけすぐ幸せになるってのも……」と言い淀む。環のことが心配なのはもちろんだろうが、元々、安は自身の幸せを後回しにしている印象がある。りんと話しているときは「私は働いて生きていくなんて考えらんない。堅実な仕事に就いてて、子どもにも優しくて、家柄も悪くなく良すぎず、ついでにややこしそうな小姑もいない。宗一様みたいな人の奥様になるのが、結局いちばん幸せになれると思う」と早口で捲したてる安。彼女はりんや母親が自ら働きに出る姿を目の当たりにして、自分だけ“奥様”になることに迷いが生まれているのかもしれない。
今回の結婚は、瑞穂屋にやってきた宗一に安が一目惚れしたような格好だが、どちらかといえば彼女は周囲に気を遣って、自身の思いを隠していたように思う。あのときも美津が口添えをしなければ、宗一との縁談は実現しなかったかもしれない。何でもすぐ口にしてしまうりんとは正反対で、姉が望まぬ縁談を持ちかけられた際は、自分が代わりに嫁に行くと申し出る姿も印象的だった。
りんが看護婦養成所に入って、看護の道へと歩みを進めていくなか、安は美津とともに環の面倒を見る時間が多かった。その分、環には懐かれているようで、瑞穂屋で宗一と会ったときは母親に見間違われてしまうほど。本人も宗一には「姪なんですけど、娘のように思っていて」と答えていた。安は一ノ瀬家に出入りするシマケンとも仲良さそうに話しており、どんな人とでもそつなく関係を築くことができるようだ。実際、シマケンの縁で仲介してもらったことが、宗一との縁談に繋がった。結局、その場ではシマケンと槇村弟の暴走によって収拾がつかなくなってしまったが、シマケンの恋心をすぐに察しているところも、彼女が俯瞰して状況を把握する性格であることを示している。
安を演じる早坂美海も、家族を思う彼女の優しさとその裏に隠している思いを役柄に宿している。2025年はドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(TBS系)で主演の多部未華子演じる村上詩穂の学生時代を演じ、母親を亡くしたヤングケアラーの苦悩と父親との距離に寂しさを感じる姿を繊細に表現した。オーディションで役を射止めた木曜劇場『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)では、ラウール演じるホストのカヲルに夢中になってのめり込む女子高生の夏希を演じる。抑圧された家庭環境で生きる重苦しさを感じさせる授業中とは異なり、カヲルといっしょにいるときは解き放たれたような幸せな表情を垣間見せて、異なる面から彼女のキャラクターを伝えてくれた。
安の縁談はりんにとっても、一ノ瀬家にとっても、重要なターニングポイントになるはずだ。彼女の迷いや心の奥底に抱く本心を、早坂がどのように表現するのか。りんの周辺の人間関係や恋模様も活性化する予感が漂うなか、安の決断にも注目したい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK