吉田恵里香はなぜ山田よねを主役に据えたのか 『山田轟法律事務所』に込めた切実な“怒り”

 連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合)で大きな反響を呼んだ山田よね(土居志央梨)と轟太一(戸塚純貴)。彼らを主人公に据えたスピンオフ『山田轟法律事務所』が3月20日21時30分よりNHK総合で放送される。

 本編では語られなかった戦後の混乱期。空襲で重傷を負った増野(平山祐介)をリヤカーで運びながら、荒廃した上野の街で法の無力さに絶望するよねの姿から物語は幕を開ける。姉・夏(秋元才加)と再会するも二人の心はすれ違ったままで、その夏を理不尽な暴力が襲う。真相が闇に葬られてしまう絶望の中、よねは憲法14条を怒りに突き動かされるように壁に記す。そして轟との再会を機に、よねは追い詰められた人々の事件に立ち向かっていく。

 脚本を手がけた吉田恵里香に、本作に込めた「怒り」への切実な思いや、本編では描けなかった裏設定について話を聞いた。

 数ある魅力的なキャラクターの中で、なぜ山田よねがスピンオフの主人公に選ばれたのか。吉田はその理由を「寅子(伊藤沙莉)の対になる存在」だからだと語る。

「どの人物でもスピンオフを書けるつもりで作っていましたが、寅子の対になる登場人物は主によねと花江(森田望智)でした。本作はリーガルエンターテインメントですので、それがより色濃く出るのはやはりよねかなと。また、よねと轟の2人の活躍をより多くの方が観たいと言ってくださった体感があったので、自然と決まっていきました」

 今回は72分という長尺の一本勝負。「長い尺でお話を見せるというのは『虎に翼』本編ではなかったので、いい経験ができた」と吉田は振り返るが、その尺が作品のトーンにも影響を与えたという。

「たとえば15分×5本のような作品だったら、もっと明るいトーンの話を描いた気がします。でも、よねに寄り添って考えていくと、ポジティブなだけの物語にはどうしても作れない。だからこそ、轟という人生においての重要なバディがよねには必要だったんだと思える構成にしました。想定よりもシリアスなものにはなりましたが、そうせざるを得なかったんです」

 本作の大きなテーマとなるのが、「正しく怒る、不機嫌でいる」というセリフだ。吉田は、現代社会における「怒り」の捉えられ方に対する違和感を口にする。

「怒ることや声を上げることがなぜかネガティブに取られたり、『怒ったら負け』みたいな謎の理屈がこの社会にすごくある気がしていて。私はそうではなくて、なぜその人が怒るのかという歴史的構造をちゃんと理解しないといけないと考えています。『虎に翼』における『怒る』というのは、人を傷つけるための道具ではなく、声を上げて社会を変えたり誰かを守るために使うこと。それがより深く伝わるといいなと思い、主役であるよねに託しました」

 一方で、よねは決して完全無欠の「聖人」ではない。

「よねは信念は“正しさ”にあふれていますが、行動は割とそうでもない。小橋(名村辰)の股間を蹴ったりもするので、あまり『聖人』にはしたくなかったんです。言葉だけではなく、はみ出してしまう怒りみたいなものがあっていい。世間がどうというよりも、よねなりの正しい怒り方で爆発させてほしかったので、あの泥臭い感じが出せたのはすごく気に入っています」

 そして吉田は、よねが「怒りたくて怒っているわけではない」という切実な事実を強調する。

「世の中には、声を上げている人に対して『この人は強いから』『好きでやっている』と勝手に捉えて過小評価する風潮がありますが、それはすごく腹が立つ。よねだって怒りたくて怒っているわけじゃないし、ただ怒らなくてはいけないから立ち上がっているだけだということを、言葉で伝えるのは大事なことだと思って込めました」

 本作では、本編で“空襲で亡くなった”とされていたマスター・増野が再登場する。これには、本編からの絶妙な「辻褄合わせ」があったという。

「実は本編のシナリオ上では、マスターがどの段階で死んだかをごまかして書いていたんです。アニメのコミカライズ連載をしていたこともあり、そういう辻褄合わせを考えるのが好きなんです(笑)」

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