『ばけばけ』トキにとっての怪談=ジャンプ漫画? 令和ヒット作に共通する鬼・呪い・悪魔
生きる希望があったからではない。トキには支えがあったからである。私たちがジャンプ漫画を読むように、トキには怪談があった。
怪談が2020年代におけるジャンプ漫画である、と言ったら飛躍がすぎるだろうか。『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』の竈門炭治郎、虎杖悠仁、デンジは、鬼、呪霊、悪魔と戦う。目的は鬼になった妹を人間に戻すことであり、正しい死を追求し、普通の生活を手にすることだ。これらは欠けているもののリストである。彼らは欠落を埋めるために戦っているのだ。
欲求を満たすより、自分を整えるセルフケアが大事。もっとも失われているのは自己効力感である。いま幸福かどうかではなく、そうなれる自分かが重要だ。自分の運命の手綱を握る、人生を手放さずに生きること。その切実さは、自意識の海に沈むセカイ系から一歩踏み出している。
トキの怪談はセルフケアの実践と位置付けられる。不条理な世界に生き、この世を去った者の悲哀をわがこととして受け止める。悲しみによる癒しは同時に赦しであり、語りを通じて実装される。恨めしさがスイッチになり、生きとし生けるものの共感に昇華され“化ける”。
ジャンプ漫画の主人公も、戦いを通じて感情を昇華する。鎮魂であり慰霊。おのれのうちにあるネガティブをしずめ、なだめる作業。鬼や呪霊、悪魔との対峙は言葉をともなう。それらはナラティブの表出で、たまたまジャンプ漫画という様式上、バトルの形をとったにすぎない。戦いを捨象したそれは怪談である。
私たちが推し活をすることや、ショート動画やポッドキャストの語りに活路を見いだすことは、ナラティブの回路に入っていくことを意味する。説明を通じて得られる効力感や世界の一体性への信頼から、生きる力を汲み出す営みだ。
『ばけばけ』のトキは物語を創作しない。消費する側で同時に語り手であるトキは、今でいうYouTuberや配信者に近い。トキにとっての怪談は、理不尽な世の中に削られた自己を回復するツールである。それは自分の心を取り戻すための、祈りにも似た呼吸である。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK