『Missホンは潜入調査中』ガールズクラッシュの痛快作に 現在と地続きの女性たちの悔し涙

 1997年のソウルを舞台にした1月から配信中のNetflixドラマシリーズ『Missホンは潜入調査中』は、アンダーカバー(潜入捜査)ものにあるサスペンスフルな展開とラブコメディを融合させつつ、ジェンダーロールの苦さを撃つ異色のガールズクラッシュドラマだ。

 “汝矣島の魔女”と恐れられるエリート金融監督院証券監督官(金融機関に関する検査・監督業務などの業務)・ホン・グムボ(パク・シネ)は、不正な金の流れがあるハンミン証券を調査していた。内部告発者カン・ミョンフィ社長(チェ・ウォニョン)とその協力者“イエッピ”の助けで査察に入る直前、ミョンフィが不審な死を遂げ、肝心の告発資料も消えてしまう。

 さらに命まで狙われるはめになったグムボだったが、“イエッピ”を自ら探ることを決意。ハンミン証券の新人社員ホン・ジャンミへ姿を偽り潜り込む。ところが、企業ハンターとして名を上げていたグムボの別れた恋人シン・ジョンウ(コ・ギョンピョ)が、新社長として偶然就任。元彼からも正体を隠しながらの潜入調査がスタートする。

 身分を隠して犯罪集団や敵対する組織に入りこむ潜入捜査ものは、ノワール作品の中でも人気があるジャンルだ。韓国ドラマでも枚挙に暇がないが、女性が主人公の作品となると、記憶喪失の検事が自分とそっくりな財閥の嫁になりすます『ワン・ザ・ウーマン 』や、父を殺された主人公が麻薬組織のボスの後ろ盾を得て警察へ潜入する『マイネーム:偽りと復讐』くらいだろう。

 そうした現状自体にも閉塞感を感じざるを得ないが、本作の背景となる1997年はより一層苦々しい時代だった。日本でいうところの「雇用機会均等法」である韓国の「男女雇用平等と仕事・家庭の両立支援に関する法」は、1986年施行の日本から2年後の1988年に施行された。IMF経済危機を挟んだ1995年から2000年の男女別産業別就業者数(※1)を見ると、金融関係でも女性の就業者数が増えたことが分かる。数字の上でも1997年当時は女性の社会進出が増えつつあったが、人々の意識にはまだ壁があった。特に象徴的なのが、ジャンミたち女性社員が会社でみな「ミス・ホン」などと呼ばれている点だ。

 女性社員は出世せずいずれ結婚することが前提なため、男性社員のように肩書やフルネームで呼ばれない、あからさまな差別(※2)だ。ハンミン証券の日常風景を見ていても、女性はお茶くみや昼食の希望の聞き取りなど雑用ばかり。一方で、ジャンミが“イエッピ”の候補と見て接触した、ミョンフィ社長の専属秘書だったコ・ボクヒ(ハ・ユンギョン)は、上司から採用試験問題のミスの責任を押しつけられ、解雇寸前になってしまう。そうなると、小さなパイの取り合いが起こる。ボクヒが四大卒の同期からキャリアを蔑まれるといった女性同士で起きる足の引っ張り合いも、結局は男性優位社会のしわ寄せだと言える。

 査察失敗の責任で降格させられたグムボは、部下だった男性たちから仕返しのように嘲笑の的にされる。これだけでも苦々しいが、ジャンミとしてハンミン証券寄宿舎のルームメイトになった仲間たちの過去からも、当時の女性たちが直面していたシビアな現実が浮かび上がる。ボクヒは家庭環境に恵まれなかった悲痛な過去があり、さらに暴力的で刑務所上がりの兄から今もなお金をせびられている。

 カン・ウンジュ(チェ・ジス)は実は会長の一人娘ノラであり、会社員生活にもさほど興味がなかったが、我が子を社長亡き後の後継者争いに食い込ませたい母親により、半ば強制的に素性を隠して入社した。いわば“コマ”だ。そしてミスク(カン・チェヨン)は、妊娠を知った彼氏に捨てられた未婚のシングルマザーだった。

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