『ばけばけ』『冬のなんかさ、春のなんかね』など “密室劇”が2026年ドラマのトレンド?
そして、プライムタイムの放送でありながら、現在もっとも密室感を覚えるのが水曜ドラマ(日本テレビ系水曜22時枠)で放送中の連続ドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』だ。
本作は小説家の土田文菜(杉咲花)が主人公のラブストーリー。第1話は、夜のコインランドリーにいる文菜が美容師の佐伯ゆきお(成田凌)に話しかけられる場面から始まるのだが、コインランドリーを外側から捉えた映像が印象的で、まるでコインランドリー自体が密室のように感じた。
物語はコインランドリーで二人が意気投合して、ゆきおの美容室に向かった後、彼の部屋に文菜が向かい、その夜のうちに恋人同士となる姿が描かれたのだが、その間、登場人物は二人しか映らず、杉咲花と成田凌の芝居を延々と撮っている。
監督・脚本を担当する今泉力哉は、『愛がなんだ』などの映画で、俳優の芝居をじっくりと見せる密室感のある物語を撮り続けてきた。
『冬のなんかさ、春のなんかね』も、その延長線上にある作品なのだが、文菜という一人の女性が複数の男性と付き合っている姿を毎週描かれているのが、連続ドラマとしての本作のユニークなところだ。
文菜は過去の恋愛経験の影響で、付き合っている人がいても、別の男性と浮気をしてしまう。劇中では「人をきちんと好きになること」「人ときちんと向き合うこと」を避けていることが彼女の悩みだと語られるのだが、様々な男性と向き合う文菜の姿を二人芝居で見せていく濃厚な映像を観ていると、彼女は人と向き合うのを避けているのではなく、その瞬間その瞬間で生まれる目の前の男との関係に、きちんと向き合い過ぎているのではないかと感じる。
この文菜の内面と行動のズレが、文菜にミステリアスな魅力を与えている。その意味で本作最大の謎は文菜で、最終的に彼女がどう描かれるか気になるのだが、何より物語を支えるお芝居の濃密さに惹かれてしまう。本作を観ていると、密室での二人芝居を撮りたいと作り手が思う理由が、とてもよくわかる。
最後に、連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ばけばけ』(NHK)についても触れておきたい。
本作は明治時代を舞台にした朝ドラで、主人公の松野トキ(髙石あかり)と外国人教師のレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の物語。
時代こそ明治だが、本作は近年の朝ドラではもっとも身近で地に足のついた世界を描いており、俳優同士の演技を見せることに力を注いでいる。中でも印象深かったのが、トキがヘブンに怪談を語る場面だ。
第57話。トキは、本に書かれた怪談を語ろうとするのだが、ヘブンは「あなたの話、あなたの考え、あなたの言葉、でなければいけません」と言う。トキは「鳥取の布団」という怪談を自分の言葉で語ろうとし、そのために部屋を真っ暗にしてろうそくに火を灯す。そして第58話で怪談を披露するのだが、怪談を語るトキの迫真の表情はもちろんのこと、話を聞くヘブンの表情も実に素晴らしい。
ここでは怪談を通してトキとヘブンの心の対話がおこなわれているのだが、その際に部屋は暗闇に包まれる。『ばけばけ』は暗闇が印象に残る朝ドラだが、暗闇が画面を覆うことで二人だけの密室が生まれ、対話が可能となる瞬間が、この場面では描かれていた。
私たちはきっと、目の前の人と真剣に向き合いたいのだ。そして、そのために暗闇という密室が必要なのである。