『波うららかに、めおと日和』2025年大ヒットの必然  “ヒットメイカー”平野眞が語る現在地

“いい画”よりも“いいお芝居”を撮り続けるために

――平野監督は30年以上、テレビドラマの演出をされてきましたが、ご自身の中で変わったことはありますか?

平野:あまり変わらないけど、90年代ってドラマの本数が異常なほど多かったんですよ。当時30代だった役者さんが今、60代、70代になっている。その深みが増していく過程は、すごく興味深いですよね。たとえば中井貴一さんとは30歳頃にご一緒して、当時も大人なイメージはありましたけど、最近会ったらものすごく深みがあって。それに僕も、「ああ、こうやって演じるんだ」とお芝居を楽しめる余裕ができたなと思います。若い頃は成立させようと夢中になっていたけど、今はお芝居を普通に見ながら「いいじゃん、いいじゃん」ってね。

――すごく贅沢な楽しみ方ですね。

平野:もう本当に。監督をしていて、ずっと楽しいんですよ。辞めるなんてことは一切思わないですもんね。

――先ほどのSNSのお話もそうですが、平野監督は環境に合わせてやり方を変えていく柔軟さがありますよね。

平野:僕はSNSが得意なわけじゃないけど、得意な人たちを巻き込んでしまえば、それも得意なうちに入る。みんなで知恵を絞れば、どんな制作環境でも絶対にできると思うんです。「じゃあその中でなんとかするよ」と、そういう面白がり方をしていますね。

――演出する楽しさに変化はありますか?

平野:若い頃は当てがわれることの方が多かったので、チームにあとから入っていかなきゃいけなかったけど、最近は年齢も年齢なので、最初から入れていただけることがありがたいですね。ベースを考えられるのは非常に気が楽だし、それを人に説明もできる。やっぱり骨組みから作らせてもらえるのは楽しいです。でも、急にポンと入りたいのもあるんですよ。たとえば『小さい頃は、神様がいて』(10月期木曜劇場/フジテレビ系)は、すごくやりたかったんですよね。どんどん現場が進む中、「これやりたいな」と思ってプロデューサーに言ったんですけど、「忙しいじゃないですか」って(笑)。観ていて温かくなる作品は、特に参加したいと思いますね。

――他の演出家の作品を観て、嫉妬することもありますか?

平野:嫉妬というよりは、自分たちの仲間を見て「この演出すげえな」「これは大したもんだ」とうれしくなるほうですね。『めおと日和』のときには、もうひとり森脇智延という監督がいたので、その演出を「うわぁ、こんなこと考えるんだ」と思いながら観ていました。チクショウとかも一切、思わなかったかな。何かの取材で印象に残っているシーンを聞かれて、彼が演出したシーンを言いましたからね(笑)。こたつの中で足がぶつかるくだりがあるんですけど、トントンとぶつけることでキュンキュン来るわけです。そこは「すっげえ森脇!」と思いながら観ていましたね。

――すごくうれしそうにお話されているのが素敵です。

平野:森脇監督のことはずっと前から知っていて、過去には助監督としてついてくれたこともあるんです。そんな彼がそういう表現をしてくれると、やっぱりうれしくなりますね。

――そういった若い世代の監督さん、これから演出家を目指す方への思いはいかがですか?

平野:そんなに大それたことを言えるような立場ではないんですけど、楽しい世界であることは伝えたいですよね。「苦しい」「寝れない」という時代ではないので、もっともっとドラマの世界に職業として入ってきてくれる人が多いといいなと思います。布教活動したいですもん(笑)。たとえば大学でキャリアデザイン的な講師をしたとしても、「ドラマは面白いぞ」とずっと言い続けたりして。どの業界でもきっと大変なことはあるけど、それ以上に大スターに名前を呼ばれたらうれしいじゃないですか。僕はそう思いますね。

――最後に、今後の日本のドラマに期待することも聞かせてください。

平野:作り手としては、「お芝居を撮ってあげたい」とは思います。お芝居って嘘なんだけど、嘘をいかに真剣にやるかを僕らは汲み取っていかなきゃいけない。“セリフを言う人間”じゃなくて、“お芝居している人”をしっかりと作っていってあげる、ということはずっとやり続けてほしいなと思います。“いい画”を撮りたいというのもわかるけど、やっぱり“いいお芝居”を撮らないとダメかなって。そういう意味で、今回の『ドビッシューが弾けるまで』は、本当にいい現場でした。役者たちは何回も何回も練習して、リハーサルもして、本番も何回もやるかもしれないけれど、僕らがちゃんとお芝居を組み立てて、みんなで作っていく。これからも、そんな作品を楽しんでほしいですね。

■リリース情報
『波うららかに、めおと日和』Blu-ray&DVD-BOX
発売中
Blu-ray:29,645円(税込)/DVD:24,200円(税込)
発売元:フジテレビジョン
販売元:TCエンタテインメント
©西香はち/講談社 ©フジテレビジョン

■配信情報
スペシャルドラマ『ドビュッシーが弾けるまで』
TVer・FODで配信中
出演:國村隼、尾崎匠海(INI)、片平なぎさ、加藤史帆、西堀亮(マシンガンズ)、春海四方他ほか
脚本:石田真裕子
演出:平野眞
プロデュース:鈴木康平
制作プロデュース:遠藤光貴
制作協力:スイッチ
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
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