宇野維正の映画興行分析
世界で唯一『アバター』新作が『ズートピア2』を抜けなかった国、日本の特殊事情
12月第4週の動員ランキングは、『ズートピア2』が週末3日間で動員85万3700人、興収11億6400万円をあげて3週連続1位。公開から17日間の累計動員は433万5900人、累計興収は60億9600万円。公開3週目に入ったばかりのタイミングで早くも『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』の最終興収52.9億円を超えて、2025年に公開された洋画作品の最高興収を更新した。
初登場2位は、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』シリーズ最新作、『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』。オープニング3日間の動員は25万3500人、興収は4億8100万円。この数字はちょうど3年前、2022年12月に公開された前作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の同期間との興収比で74%。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の最終興収は43.1億円。初動の比較で単純計算すると今回の『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は30億ちょっと。しかし、こうして長年興行分析をしているとわかるのだが、シリーズ作品の初動が前作を下回った時は例外なく初動比以上にシビアな結果となる。
世界興収の歴代1位(『アバター』)と歴代3位(『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』)に君臨している『アバター』シリーズだが、北米での『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』の初動成績は前作比で65%と、実は比率だけ見ると日本以上に落ち込んでいる。とはいえ、元の数字が35%落ちても8800万ドル(約137億円)と桁が二つ違うこと、そもそも『アバター』シリーズは北米以外のマーケットでやたら強くそれは今作も変わらないこと、批評家受け以上に観客受けがいいことなどから、約4億ドルと言われている製作費のことを考えなければ、日本以外のマーケットでは2025年の最後を締めくくるに相応しい大ヒット作と言えるだろう。
では、前作に続いてどうして『アバター』は日本でだけ苦戦が続いているのか? 前作は同時期に『すずめの戸締まり』、『THE FIRST SLAM DUNK』と上位を占有していた国内作品があったが、今回の競合作品は『ズートピア2』だけ。つまり、各国と条件は大きく変わらないにもかかわらず、日本でだけは公開初週でも『ズートピア2』の後塵を拝することになった(しかも大差で)。もっとも、今回の『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』の苦戦は完全に予想の範囲内だった。というのも、日本では少なくとも3年前の前作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の時点でファミリー層の観客を取り逃していたからだ。ここ数年の洋画のヒット作品(興収20億円以上)を見渡せば、アニメーション作品を含むファミリー層向け作品か、80年代から活躍しているムービースターの主演作品以外、ほぼ1本もないことに気づくだろう。
■公開情報
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』
全国公開中
出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバー、ウーナ・チャップリンほか
監督・製作・脚本:ジェームズ・キャメロン
製作:ジョン・ランドー、レイ・サンキーニ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/avatar3
『今週の映画ランキング』(興行通信社):https://www.kogyotsushin.com/archives/weekend/