『べらぼう』を歴史に残る作品にした制作統括の信念 エンタメは「人を豊かにする力がある」
『べらぼう』が一貫して描いていた“欲の話”
――物語の根底には、人間の“欲”が描かれていたように感じます。
藤並:そうですね。森下さんの脚本は、第1回から一貫して「欲の話」だったと思います。登場人物それぞれの欲望を丁寧に描いてくださったからこそ、政治の舞台であっても庶民の話であっても、非常に人間臭く、魅力的なドラマになったのだと思います。
――最終幕の第46回から第48回は怒涛の展開でした。史実とフィクションのバランスについてはどう意識されましたか?
藤並:特に終盤の「敵討ち」のような展開については、蔦重があまりに政治的な復讐にコミットしすぎないよう、バランスには気をつけました。あくまで蔦重は町人で、相手は武家ですから、身分の差というリアリティは外せません。彼が仕掛けるのは、武力による復讐ではなく、あくまで「本屋としてのエンターテインメント」です。「写楽」という謎を仕掛け、世の中を「あっ」と言わせて驚かせる。それこそが蔦重なりの戦い方であり、彼の“欲”だったのだと思います。
――本作には、本職の俳優だけでなく、お笑い芸人や舞台を主戦場にされている俳優など、多種多様なエンターテイナーが出演していたのも印象的です。
藤並:それは意識的に行いました。爆笑問題の太田光さんや、峰竜太さんなど、日本のエンタメの第一線を走ってきた方々へのリスペクトを込めて、お力を借りたかったんです。かつてコロナ禍で「エンタメは不要不急」と言われた時期がありましたが、僕らは「なくても生きていけるかもしれないけれど、あったほうが人生は絶対に豊かになる」と信じています。作中の蔦重たちが、困難な状況でもお祭り騒ぎで世の中を救おうとしたように、物語やエンタメには人を豊かにする力がある。その思いを根底に持っていました。
――まさにそのメッセージが、現代の私たちにも刺さったのだと思います。
藤並:森下さんの脚本にもありましたが、蔦重の最期は、彼らしく多くの人に見送られる形になりました。あれだけ多くの人が集まってくるというのは、彼にそれだけの人望があった証拠です。「人を惹きつけ、人を繋ぎ、きっかけを与える」。プロデューサーとしてずば抜けた能力を持っていた蔦重の生き様をときどき思い出していただけたらうれしいです。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK