細田守×奥寺佐渡子の再タッグが熱望されるのはなぜ? 『時かけ』『サマーウォーズ』の功績
また、奥寺は設定を整理して分かりやすい物語を組み立てる力にも長けている。映画『国宝』で上下巻合計800ページ超えの原作小説を175分の尺に収めることに成功したのも、物語の軸となる要素を抜き出して再構成する力の賜物だろう。
そもそも細田は物語の下敷きとして、SF的な凝った設定や壮大な世界観を用意することを好むタイプの監督だ。具体的には、サイバースペースなどの異世界と学園や田舎などの日常を対比させる形の設定が多い。劇場アニメは大体長くとも2時間半という時間的な制約があるため、シンプルなストーリーにまとめ上げるにはかなりの技術が求められる。
そうした点に着目すると、奥寺がいかに巧みな構成を行ってきたのか分かるだろう。その最たる例として、『サマーウォーズ』を挙げられる。
同作の舞台は仮想世界「OZ」が普及した世界。人工知能「ラブマシーン」のサイバー攻撃によって大混乱が巻き起こるなか、総勢20人を超える陣内家の一族と主人公の少年が活躍するという壮大なストーリーだ。これを破綻なく114分という尺に収めてみせたことだけでも驚かされる。
しかも複雑な設定を説明するためのわざとらしいセリフが少なく、自然な描写によって主人公とヒロインのキャラクター像や陣内家の人間関係が明かされていくため、脚本の完成度は細田作品随一ではないかと思われる。
ところで細田が脚本を単独で手掛けるようになった経緯については、自身のパーソナルな部分から出てきた物語を描くようになったためだとインタビューで明かされていた。(※)
そうした変化と関係して、『未来のミライ』以降の細田作品では、より作家性が強く表現されるようになった印象だ。逆に言えば奥寺は、細田の作家性を万人受けのエンタメに接続するための橋渡しのような役割を担っていたのかもしれない。
宮﨑駿から庵野秀明に至るまで、強烈な作家性を上手く制御して傑作を生み出してきたアニメ監督は多いが、それは決して簡単なことではないはず。細田が次回作以降で単独脚本を続けるにせよ、別の選択を行うにせよ、その挑戦を心から応援したい。
参照
※ https://www.creators-station.jp/interview/viva-movies/134997
■公開情報
『果てしなきスカーレット』
全国公開中
出演:芦田愛菜、岡田将生、山路和弘、柄本時生、青木崇高、染谷将太、白山乃愛、白石加代子、吉田鋼太郎、斉藤由貴、松重豊、市村正親、役所広司
監督:細田守
配給:東宝、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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