細田守×奥寺佐渡子の再タッグが熱望されるのはなぜ? 『時かけ』『サマーウォーズ』の功績

 細田守監督による最新作『果てしなきスカーレット』に、世間ではさまざまな意見が上がっている。なかでも目に付くのが、「脚本家・奥寺佐渡子とタッグを組んでいた時期の作品の方が面白かった」といった意見だ。

 実際のところ、奥寺佐渡子の脚本は細田作品にどのような影響を与えてきたのか。できるだけ中立的な目線を心掛けつつ、その役割をあらためて考えてみたい。

 まずは奥寺がこれまで関わってきた細田作品を振り返ると、1作目は2006年の『時をかける少女』、2作目は2009年の『サマーウォーズ』だ。その後、2012年の『おおかみこどもの雨と雪』では細田との共同脚本を担当しており、2015年の『バケモノの子』では脚本協力とクレジットされていた。すなわちそれ以降の『未来のミライ』、『竜とそばかすの姫』、『果てしなきスカーレット』は細田の単独脚本となる。

 奥寺が関わった作品とそうでない作品の違いとして、もっともよく指摘されるのが、登場人物に感情移入しやすいかどうかという点だ。というのも『未来のミライ』から『果てしなきスカーレット』までの作品は、しばしば「登場人物の心の動きが掴みにくく、ストーリーの都合で動いているように見える」といった意見が寄せられてきた。

 それに対して奥寺は人間ドラマを得意としており、観る者の心を動かすキャラクターを描くことに長けている。今年脚本を手掛けた『国宝』は実写邦画の歴代1位を塗り替えるほどの大ヒット作となったが、同作は正反対の境遇に生まれた2人の歌舞伎役者に焦点を当て、その魂のぶつかり合いを克明に描き出す作品だった。

『時をかける少女』©2006 TK/FP

 細田とタッグを組んだ作品でも、説得力のある心情描写がいくつも見て取れる。たとえば『時をかける少女』はタイムリープする能力を手に入れた女子高生の真琴が、青春の痛みを通じて成長を遂げる姿を描く物語だった。

 作中序盤、真琴は友人の千昭から「俺と付き合えば?」と告白されるが、友情を大切にしたいと思っていたため、タイムリープで“なかったこと”にする。そして学校でも千昭を避けるが、いざ別の女子と付き合い始めたことを知ると、ふてくされて夕食をやけ食いするのだった。その後も真琴の心の動きには一貫してリアリティがあり、最後まで感情移入できるキャラクターとなっている。

 さらに観る者の共感を誘うのが、登場人物たちのセリフ回しだ。他愛のない冗談を交わしながら友達3人でキャッチボールをする場面や、真琴が千昭からの告白を妨害するために「うちの妹がさ……」とどうでもいい話を始める場面など、現実の高校生に近い温度感で掛け合いをする様子が描かれている。

 わざとらしい言葉を抜きに、くだけた会話だけで登場人物の関係性の変化を描き出していくところは実に見事で、ラストシーンの真琴と千昭の掛け合いは今観ても大きな達成だと感じられるはずだ。

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