『終幕のロンド』は失ってはいけないものを教えてくれる “樹”草彅剛の止まっていた時間

 『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』(カンテレ・フジテレビ系)第9話では、樹(草彅剛)の秘めた思いがあふれ出した。

 海斗(塩野瑛久)がHeaven’s Messengerを辞めると言い出した。競合の東京エンドメモリーにヘッドハントされ、新店舗の責任者を任されると言うのだ。磯部(中村雅俊)と樹は栄転を喜ぶ。御厨ホールディングス社長の剛太郎(村上弘明)は、海斗の歓迎会を開く。しかし、遺品整理会社を買収した魂胆は別のところにあった。

 樹は、病気の磯部に代わって、御厨ホームズに対する集団訴訟の原告団に参加することになった。御厨ホールディングスでは、社員に自殺者が出た会社のイメージ回復のために、真琴(中村ゆり)が行っている絵本の読み聞かせ動画を公開することに。だが、その動画が思わぬ反響を呼び……。

 ドラマも終盤にさしかかり、前面に出てきたのは御厨ホームズへの集団訴訟。過労自殺した社員には、磯部の息子の文哉(米田惠亮)や陽翔(山時聡真)の兄の太陽(末廣拓也)も含まれている。樹は陽翔に会い、文哉の元恋人と面会の約束を取り付ける。それは編集者の静音(国仲涼子)で、樹は、静音と利人(要潤)の関係を知ることになる。

 一見するとまとまりのない線が錯綜し、これらがどのように回収されるかは興味深く、また心配でもあった。愛憎渦巻く関係は、別々の方向に向いていたが、訴訟の進展にともなって大きな一つの円環になりつつある。中心にいるのは樹と真琴だ。

 

 もう会わないと樹に告げた真琴だったが、動画に陸(永瀬矢紘)が映っていたことから学校でのトラブルに発展し、広報部長の彩芽(月城かなと)を交えて対応を協議することに。動画を削除してほしいと譲らない真琴と、それをかばう樹を前にして、彩芽は動画の削除を約束する。

 真琴をひそかに思い、手の届くところに置いておきたい彩芽は、目の前の二人が互いを思い合う関係であると悟ったのだろう。本人よりも先に周りが気づくのは、あり得る展開だ。真琴への思いを口に出せず、あきらめきれない彩芽は、樹に嫉妬してもおかしくない。

 樹と真琴が約束を反故にしてしまったのは、不可抗力と考える余地がある。引き裂かれた男女が周囲の制止を振り切って逢瀬を重ねる様子は、古典的なフォーマットである。それだけになおさら、本人たちの心境が気になるところだ。

 樹と真琴は、亡くなったこはる(風吹ジュン)や陸を介して、家族同然の関係を築いた。それでも社員と顧客の関係であり、間隔をあけてベンチに座り、ペットボトルを飲み終わるまでの限られた時間を共有する間柄だった。慎重すぎるくらい心の中で一線を引いてはず。それがどうして?

 ここからは筆者の考えだが、樹にとって真琴は、止まっていた時計の針をふたたび動かした存在といえないだろうか。樹が春菜(中島亜梨沙)の死後もエンゲージリングを着けていたのは、妻への誠実さでもあるが、端的に彼の中で時間が止まっていたと考えられる。幼い息子を育てるために、亡き妻の思いを背負い、親子の時間をつむぐ必要があった。また、そうやって時間をかけることでしか、樹の心の傷は癒えなかった。

 そんな樹は、真琴と出会うことで疑似的な家族になり、陸もその状況を受け入れた。真琴とは、伊豆への旅を通じて、互いを大事な存在と認識する基盤ができた。真琴のほうが先に恋心を自覚していて、大胆な行動となって表れた。利人と御厨家の前では仮面を着けていた彼女に、居場所を作ったのが樹だった。

 だからこれは大人の恋であるが、経験を重ねた個人が人生の新しいステージへ進む物語と考えると、しっくりくる。その中で問い直されているのは家族の形で、背後には死の影が色濃くある。愛情によってできた家族が避けられない死に直面し、本当に大事なものに気づく。なくしてはいけないものを教えてくれる今作である。

終幕のロンド ーもう二度と、会えないあなたにー

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』の高橋美幸が脚本を手がけたヒューマンドラマ。遺品整理人である主人公が、遺品整理会社の仲間たちとともに、さまざまな事情を抱えた家族に寄り添っていく。

■放送情報
『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:草彅剛、中村ゆり、八木莉可子、塩野瑛久、長井短、小澤竜心、石山順征、永瀬矢紘、要潤、国仲涼子、古川雄大、月城かなと、大島蓉子、小柳ルミ子、村上弘明、中村雅俊、風吹ジュン
脚本:高橋美幸
演出:宝来忠昭、洞功二
演出・プロデューサー:三宅喜重
プロデューサー:河西秀幸、三方祐人、阿部優香子
音楽:菅野祐悟
主題歌:千葉雄喜 「幸せってなに?」 (Warner Music Japan)
制作協力:ジニアス
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/shumaku-rondo/
公式X(旧Twitter):@shumaku_rondo
公式Instagram:@shumaku_rondo

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