『ばけばけ』の画面はなぜ暗い? 照明とリンクする髙石あかり×トミー・バストウの心情

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第10週「トオリ、スガリ。」では、いよいよ松江にも冬が訪れていた。トキ(髙石あかり)がヘブン(トミー・バストウ)のもとで女中として働き始めたのも束の間、“beer(ビア)”の発音をめぐって騒動が繰り広げられたり、伝授されたスキップがうまくできず練習に勤しんだり。劇的な出来事は何ひとつ起こらずとも、忙しない日々を縫うようにおかしみのあるやりとりが映し出されてきた。

 ヘブンに思いを寄せるリヨ(北香那)の登場によって、トキだけでなく江藤知事(佐野史郎)から娘の恋路を阻止するよう頼まれた錦織(吉沢亮)も苦労が絶えない。さらには勘右衛門(小日向文世)にも恋の気配が漂っており、トキの周辺は日に日に慌ただしさを増している印象だ。

 ほんの少しずつではあるものの、人間関係の変化が見て取れる物語において、第1話からずっと変わることなく本作の色を特徴づけているのが映像の「暗さ」だろう。

 時は明治時代。日が暮れれば、家の中を照らすのは行燈やろうそくの明かりだけ。実際、当時を再現するために、夜の室内シーンの撮影は補助的にLEDライトを使用する程度で、部屋の明るさを最小限に留めているという。ある意味、史実を踏襲しているとも言えるが、トキとヘブンが生まれ育った環境には常に“影”が落ちていたことも影響している。

 没落士族の家庭に生まれたトキは、父親の司之介(岡部たかし)が大博打で始めたうさぎ事業の大失敗によって、多額の借金を背負うことになった。今は没落してしまったが、松江の名家だった雨清水家は光の入る広々としたお屋敷を持っているのとは対照的に、松野家の貧乏長屋は常に“影”に隠れていた。その後も、銀二郎(寛一郎)との別れ、ヘブンの“妾”と“女中”を勘違いした騒動など、たび重なる試練がトキには降りかかる。

 ただ、彼女を取りまく影が濃くなればなるほど、頭上から差し込む光はよりいっそう切実さを帯びていく。第35話で家族にひた隠しにしていた、ヘブンのもとで女中をしている事実が明るみになり、トキがフミ(池脇千鶴)や三之丞(板垣李光人)に思いの丈をすべて打ち明けたシーンはその象徴。明るみになったトキの思いに呼応するように、影に隠れていたフミにも光が当たり、徐々にいつもの和やかな空気が家族を包んでいく。登場人物たちの心の明暗は、表情を照らし出す照明の明るさともリンクしていた。

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