『ばけばけ』“小谷”下川恭平の叶わぬ初恋がもどかしい “トキ”髙石あかりに訪れた春

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第46話では、冬の季節にもかからず、トキ(髙石あかり)に春が訪れた。

 島根の冬は案外寒い。特に東部に位置する松江は冬になると日本海からの気流の影響で雪が降り、厳しい寒さになる。これには屈強な武士の心を以ってしても勝てないようで、勘右衛門(小日向文世)は素振りの稽古、司之介(岡部たかし)も牛乳の配達を早々に切り上げて家に戻る。

 それでも寒いのが、日本住宅。今でも断熱性や気密性が相対的に低く、日本の家は寒いというのが世界の共通認識だ。加えて当時はまだストーブもなく、人々は囲炉裏や火鉢で寒さをしのいでいた。初めて松江の冬を経験したヘブン(トミー・バストウ)は寒さに震えながら、「ジゴク! マツエ……フユ、ジゴク!」と大騒ぎ。実際に小泉八雲ことラフカディオ・ハーンは寒がりだったようで、妻・セツの手記『思い出の記』には、「出雲は面白くてヘルン(ハーン)の気に入ったのですが、西印度(※来日前にハーンが滞在していた西インド諸島)のような熱いところに慣れたあとですから、出雲の冬の寒さには随分困りました」という記述がある。

 少しでも寒さが和らげば、とヘブンをお風呂に案内したトキ。そんな中、ヘブンに忘れ物を届けにきたのが、松江中学の生徒・小谷春夫(下川恭平)だ。小谷といえば、第40話でヘブンの家にやってきて、トキとクイズ大会を楽しんだ教え子トリオの一人。すでに顔見知りの2人は何気ない会話を交わすが、突如小谷が「それにしてもヘブン先生はいいですね。こんなお綺麗な方と、いつもいられて」と爆弾発言をする。阿佐ヶ谷姉妹扮する蛇と蛙は冬眠中につき静かだが、「あら、やだ」「お綺麗ですって」という声が今にも聞こえてきそうだ。

 ここで、トキが今まで男性から言われたことを振り返ってみよう。

「次来たときは、織子で鍛えたその太い腕引っ張って、遊郭に連れていくけんのぉ!」(森山/岩谷健司)
「ウデ、フトイ。アシ、フトイ。シゾク、チガウ」(ヘブン)
「つまり……抱きたくないそうだ」(錦織/吉沢亮)

 たまたまかもしれないが、トキの周りにいる男性は少々デリカシーがない。元夫の銀二郎(寛一郎)は出会った当初からトキを好いていたが、不器用でかつ常に勘右衛門たちの目があったため、愛の言葉を囁くことはなかった。おそらくトキが男性から面と向かって褒められたのは、これが初めてなのではないだろうか。あまりの衝撃に言葉を失っていると、ヘブンがお風呂から上がり、小谷は帰っていった。

 次の日、トキの実家の前をうろついていた小谷をサワ(円井わん)が発見。サワがトキの幼なじみと知るや否や、小谷はトキが好きなものを聞き出そうとする。その心はすでにサワにはお見通しで、「好きなの? どこに惚れたのよ?」と質問攻めにされた小谷はもじもじしながら「まあなんというか……顔です」と打ち明けた。顔で好きになる単純さも、それを正直に言ってしまう素直さもかわいらしい。中学生といえども、今の高校生くらいの年齢だと推測するが、まだ青々とした若さを下川が体現している。

 銭太郎(前原瑞樹)から借金取りとしての醍醐味がないとして逆に文句を言われてしまうほど、ヘブンの女中になってから順調に借金を減らしているトキ。ヘブンとも着実に距離が縮まっており、人生が少しずつ上向きかけている。その人生に突然入り込んできた小谷が何をもたらすのか。少なくともトキとヘブンが結婚することは分かっているので、小谷少年の初恋は成就しないことは確かだ。ヘブンに恋するリヨ(北香那)の存在がトキの心に微々たる波紋をもたらしたように、小谷の存在もまた2人の関係に一石を投じるのかもしれない。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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