『ばけばけ』髙石あかりの心からの笑顔が早く観たい トキが選んだ“闇でもあり唯一の光”
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第30話で、トキ(髙石あかり)は女中となる覚悟を決める。第5週から“運命の人”として松江にやってきたヘブン(トミー・バストウ)と第6週より再登場したタエ(北川景子)と三之丞(板垣李光人)。トキを取り巻く彼らが悲しくも交錯する脚本、さらにタエを演じる北川景子、そしてトキを演じる髙石あかりの芝居に思わず息を呑む。
傳(堤真一)の死後、タエと三之丞は、屋敷と工場、家財を売って借金を返し、安来の親戚に身を寄せた。しかし、安来の家も貧しく、金を入れないといけない。「雨清水の人間なら人に使われるのではなく、人を使う仕事に就きなさい」というタエの思いから、金を入れることができなくなり、家を追い出され、2人は松江に戻り、タエは潔く物乞いになった。
一度はトキを頼って松野家を訪ねてきていた三之丞に、トキは「うちに来てごしなさい」と迎え入れようとするが丁重に断られる。三之丞がタエの考えを想像しての「一度、外に出した娘の家に世話になるなんて」という言葉が、トキの胸に突き刺さっていた。
トキは物乞いをしているタエをまた見つけてしまう。道端に敷いた筵に座っているタエ。その下はゴツゴツとした砂利だ。顔を逸らし通り過ぎようとするトキだったが、通行人がお椀に銭を入れる。武家の娘としての誇りから頭を下げることができず、銭を奪い返されていたタエだったが、今度は地面に目を向けたまま両手をつき、頭を下げる。それほどまでにどん底が来ているということを表しているが、手をついた指先は筵がよじれるほどに爪を立て力が入っている。格がどうかなど、もう何も言ってられない。ひもじさに負け、藁にもすがる自分に悔しさが滲む。
そんな実の母の姿を目の当たりにし、涙で歪むトキ。思わず走り出し、我に帰ったトキは振り向かずに、一点を見つめ歩き続ける。その夜、松野家は内職の絵が売れた収入でしじみ汁を飲んだ。一見するといつものように明るく笑い合う松野家の風景に見えるが、タエの物乞いのシーンと並べることで、トキたちが“まだ”幸せの中にあることを、そしてそんな自分に心が痛み、どこか上の空であるトキの心情が想像できる。
翌朝、トキはヘブンの家を訪ね、迎えに来た錦織(吉沢亮)に「ヘブン先生の女中になります」と告げる。そこに笑みはない。不安、恐怖、諦めにも似た思いが混濁していることが分かる。トキを演じる髙石あかりは彼女の決断を「手に取ったのは、闇でもあり唯一の光」だと自身のSNSに記している
第7週「オトキサン、ジョチュウ、OK?」に向けては、ヘブンの「シジミサン……ヨナカデス」というセリフとともに、トキが寝床へと誘われ、蛇と蛙(阿佐ヶ谷姉妹)が叫び声を上げるといった朝ドラとしてはかなり攻めたミスリードを誘う予告が展開されている。ネックとなっているのは、ラシャメンとしての“夜の世話”。江藤県知事(佐野史郎)や梶谷(岩崎う大)にとってはそういうものとして話が進んでいるが、ヘブン本人がそのことについて言及しているシーンはまだない。第1話冒頭、トキがヘブンに怪談を聞かせ、やがて口付けを交わそうとする、さらにはタイトルバックに映し出されている2人の心からの笑みが本編で早く観たいと思えてならない。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK