『小さい頃は、神様がいて』岡田惠和脚本らしい1時間 “渉”北村有起哉が流した涙

 フジテレビ木曜劇場『小さい頃は、神様がいて』第3話は、「離婚まで54日」を抱えた小倉夫妻がついに“答え”に向き合う回。けれど、それは喧嘩でも修羅場でもなく、人が人に向かい合う1日が描かれる。台詞よりも間、涙よりも笑いが沁みる、まさに岡田惠和脚本らしい1時間だった。

 舞台はいつもの「たそがれステイツ」。一階の永島家に住人が集まり、小倉あん(仲間由紀恵)はついに口を開く。離婚の理由を問われたあんは、夫の渉(北村有起哉)個人への不満ではなく、母親ではない自分を取り戻したいと語る。静かに、でもはっきりとした声だった。誰もが渉の反応を待つが、渉は言葉を失ったまま沈黙。時間としてはほんの数分なのだが、その沈黙は長く感じられた。

 痺れを切らしたさとこ(阿川佐和子)が夫の慎一(草刈正雄)に話を振るが、「どうなるんだろうね、この国がね」ととんちんかんな返答。重くなりかけた空気がふっと和らぎ、笑いがこぼれる。誰もが不器用で、誰もがどこか間違っている。その“ままならなさ”がこのドラマの愛おしさでもある。だが結局、渉が何も言えずにいることがまた場を濁し、気まずさを生む。あんに言わせれば「そもそも約束を忘れていたのが悪いのよ」という一言に尽きるのだ。

 そんなとき、あんの携帯に娘・ゆず(近藤華)から「朝まで帰れなくなった」と連絡が入る。二人きりになるのを避けたい渉とあんのため、住人たちは気を利かせ、男女に分かれて夜を明かすことに。三階では渉と慎一が、男二人の深夜トークを繰り広げる。渉は「頭では理解してるけど、(離婚を)口にするのが怖い」と吐露し、これまであんがどれだけ家族を支えてくれたか、そして約束を忘れていた自分の愚かさを悔いる。慎一もまた、過去の自分を重ねる。仕事に夢中で家族を顧みなかった日々。今、地域活動に奔走する自分は、きっとその“償い”なのだろう。そこに流れるのは、男たちなりの後悔と不器用な優しさだ。

 一方、二階ではあんとさとこが、奈央(小野花梨)と志保(石井杏奈)の部屋を訪れていた。狭いテントに4人で潜り込み、夜更けのガールズトーク。親への複雑な感情や、二人の関係を打ち明けた経緯を語り合う若い恋人たちに、あんとさとこは穏やかに耳を傾ける。あんが自分たちの離婚についてどう思っているのか相談すると、さとこは笑いながら「他の人がなんと言おうと関係ないじゃない」と背中を押す。励ましというよりも、“あなたの人生はあなたのもの”という大人の共感がそこにあった。

 そして夜明けると、慎一の提案で、全員がラジオ体操へ。渉は嫌々ながらも参加し、朝の光の中で、かつて幼いゆずと通った公園を思い出す。その記憶が、長く凍っていた心を溶かすことになる。渉は涙をこぼしながら、「離婚しよう」と声を張り上げる。その姿はあまりにもみっともないものではあったが、けれど誠実な告白だったように思うのだ。号泣しながらラジオ体操をする男の姿に微笑むあん。彼女が愛したのは、結局こういう人なのだ。

 後半では、奈央が客とのトラブルを経て志保と再びキッチンカーを見に行くが、車はすでに成約済み。流れていた松任谷由実の「守ってあげたい」が、彼女たちの夢と現実を優しく包み込む。過ぎ去るチャンスも、繰り返す後悔も、このドラマの中では“誰かを思う力”として描かれる。

 そして物語の終盤、慎一とさとこはしばらく家を空けることになった。これまで二人を支えてきた夫婦がいないとなると、渉とあんは上手くやっていけるだろうか。けれど、そうした日常の中でこそ、本当の関係が試されるのかもしれない。この機会にじっくりと向き合ってくれるといいのだけれど。

小さい頃は、神様がいて

岡田惠和が完全オリジナル脚本を手がけるホームコメディー。3階建てのレトロマンションに住む、3家族の住人たちの物語が紡がれる。

■放送情報
『小さい頃は、神様がいて』
フジテレビ系にて、 毎週木曜22:00~22:54放送
出演者:北村有起哉、小野花梨、石井杏奈、小瀧望、近藤華、阿川佐和子、草刈正雄、仲間由紀恵
脚本:岡田惠和
主題歌:松任谷由実
音楽:フジモトヨシタカ
演出:酒井麻衣
プロデュース:田淵麻子
制作プロデュース:熊谷理恵、渡邉美咲
制作協力:大映テレビ
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
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