『ばけばけ』は人生の喜びを教えてくれる朝ドラ 髙石あかりだから表現できる“楽しい地獄”
第10話終盤における銀次郎(寛一郎)とトキとの祝言の光景を観ていて、ここは「天国町」という名前の「楽しい地獄」なのだと思った。家族や雨清水夫婦が温かく、花嫁衣装に身を包んだトキを見守り、サワやなみ(さとうほなみ)をはじめとする住民たちが、紙吹雪とともに祝福する。そんな中飛び込んでくる、サワの軽快な「おめでとう、人柱」という言葉は、友人が投げかける祝いの言葉にしては奇妙な言葉である。
第7話においてサワが言った「おトキは家の借金返すためにお婿をもらう人柱。私は一家が野垂れ死なないために先生になる人柱。つまり……同じ生贄だなあって。色町から抜け出すための」という言葉を反芻せずにはいられない。だからこそ、幸せ一色のその場面に、「家のための人柱」に過ぎない「自分たちの宿命を明るく笑って受け入れてみせる」という、彼女たちの切なさが滲むのである。
「怪談」の根底に悲しみや切なさがあるように、笑いでいっぱいの『ばけばけ』の根底には、普段私たちが心に抱いても見て見ないふりをするような、穏やかならざる感情があり、過酷な現実がある。大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)で吉沢亮演じる渋沢栄一が嬉々として駆け抜けた新しい時代を、どうすればいいのか分からずに立ち尽くして茫然と見ていた側の人々の人生がそこにある。
蛇(渡辺江里子)と蛙(木村美穂)が語り手として登場するのもまた一興である。地面に近い低いところからトキたちの人生そのものを俯瞰しているのだから。さらにはその声を阿佐ヶ谷姉妹が担当していることで、たちまちそれは街角の井戸端会議になり、「あ~人生って……!」で締めくくる人生讃歌となって、今、彼女たちが、もしくは私たちが生きていることの喜びを謳いあげるのだ。そんな愛すべきドラマとともに過ごせる朝を幸せに思う。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK