『ばけばけ』と『ベイビーわるきゅーれ』に共通する“軽さと重み” 美しいけど切ない花嫁姿
こういった状況を極力重たく描かない手つきは、髙石あかりの代表作『ベイビーわるきゅーれ』(テレ東系)を思い出す。彼女が演じた役は社会生活がうまくできず、唯一うまくできるのが殺し屋の仕事で、その仕事のときだけ颯爽と輝く。でもそこに何か大義や信念があるわけではなく、それしかできないからやっている。痛快なアクションであればあるほど果てしない虚無が広がる。
いまの社会をまざまざと映した像が『ばけばけ』のトキにも感じられるのだ。「殺し」は『ばけばけ』における「怪談」に置き換えて考えられる。
トキは幼い頃から悲しいことがあると母に怪談をせがんできた。傅に「ランデブー」に連れていってもらった清光院では大騒ぎしてこわがりながら、震える心身を楽しんでいた。心身に降り積もった悲しみやしんどさを一瞬でも解消するのに、劇薬が必要だ。
「怪談とはこわいだけじゃなく、さみしいもののよう」と傅は言い、銀二郎は、謡曲を謡うと化けて出ると言い伝えられている松風に「さみしいんでしょうね松風は」と理解を示し、「(怪談)はどの話もどこかさみしくて切ない」と傅と同じことを言う。
トキのみならず、武士の時代が終わって髷を切った傅も、貧しい家に婿入りしてきた銀二郎も、おそらくなんらかのさみしさを抱えているのだろう。
昔、『淋しいのはお前だけじゃない』(TBS系)という昭和のドラマがあったが、『ばけばけ』はまさにみんな淋しくて、でも淋しさとすら共存していく物語なのではないだろうか。
トキの結婚が決まり、父・司之介(岡部たかし)がパクってきた牛乳をみんなで飲んで白いひげを見てはしゃぐところから幸せの絶頂の結婚式の流れが、美しく描かれれば描かれるほどなんだか切ない。サワは「人柱〜」と囃すのがなんだか意味深にも聞こえる。この場合、誰が人柱なのか。トキか銀二郎か。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK