キム・ウビン×スジ9年ぶり共演の王道ラブコメ 『魔法のランプにお願い』なぜ賛否両論に?
ここで、ストーリーにも触れておきたい。精霊であるイブリースが、1000年の時を経て、巡り合うヒロインがガヨンだ。彼女は生まれながらのサイコパスであり、親から疎まれて祖母オ・パングム(キム・ミギョン)と暮らしている。スジの出演するドラマは軒並みヒット作品となってきたが、本作で演じたサイコパスのガヨン役は、彼女の中でも新境地を開く挑戦だっただろう。ガヨンは感情を持たないサイコパスだが、祖母は孫を大切に慈しみ、町の人からも大切に育てられる。そんなガヨンと前世から因縁のあるイブリースが出会う。
イブリースは、前世でガヨンと何度も巡り合う中で、彼女が3つの願いを常に他人のために使ったことが原因でランプに閉じ込められてきたのだった。ガヨンとして転生した今度こそ、彼女に利己的な願いをさせ、堕落させようとする。しかし、ガヨンは、まず他の人たちの願いを叶えることをイブリースに命じる。
イブリースによって3つの願いを叶えてもらう人間たちの尽きぬ欲望とその代償を、ガヨンと画面のこちら側にいる私たちは、続けざまに見せられる。人間の悩みは「人間関係」「お金」「健康」の3つに集約されると聞いたことがあるが、物語の中でも同じようにこの3つが登場人物たちを悩ませ、狂わせていく。それは遥か彼方の過去にも遡り、イブリースとガヨンの前世での悲しい結末に思わず涙が溢れた。
キム・ウビンとスジが『むやみに切なく』で演じたトップスターと初恋の人もかけ離れた関係性だったが、9年ぶりの共演となった今回も、サタンとサイコパスという異色の組み合わせ。ファンタジーど真ん中のロマコメでのキム・ウビンとスジの息の合ったケミストリーは抜群で、阿吽の呼吸を見せていた。
さらに、CGを多用した映像美からは、韓国ドラマが西洋や中東の世界をも表現しようとする心意気を感じた。一昔前の韓国ドラマは、日本がロケ地のものも多く、病や貧困、画面の色も昏いものが多い時代もあった。しかし、キラキラした恋愛王道がメインとなり、現在は社会の持つ暴力性や闇、“心”を描くものが増えてきた印象だ。
そんな中で、どこか古典的王道ファンタジー路線でもあり、少女漫画やラノベのような世界観を創り上げつつも、普遍的である“愛”を紡ぎ出した本作。悪に生まれたガヨンが善として生きていく姿や、彼女の周囲の人々の交流、精霊と人間の恋……。“非日常”の世界に浸れるファンタジーや恋愛ドラマ、温かみのある人間ドラマが好きで、ハッピーエンドを心の滋養にしている筆者は、本作を好ましく視聴したことを記しておきたい。
キム・ウビンとスジの恋愛以外にも、ノ・サンヒョンのコミカルさ、アン・ウンジンの温かみのある芝居、ダニエル・ヘニーの笑えて泣ける演技、キム・ジフンの色気を纏ったカッコよさ、ソン・ヘギョの輝く美貌……など、豪華俳優陣の見どころも盛りだくさん。さらに、『パリの恋人』『ザ・グローリー』『相続者たち』と、キム・ウンスク作品のパロディーシーンも。笑いを誘うコミカルシーンなど、韓ドラファンを喜ばせる仕掛けもあった。
「完璧な願い事などありえないんだ」と言ったジーニーは、ガヨンとふたりで追いかけっこをしながら、今後も多くの人の夢を叶えていくのだろう。
■配信情報
『魔法のランプにお願い』
Netflixにて配信中
出演:キム・ウビン、スジ、ノ・サンヒョン、アン・ウンジンほか
脚本:キム・ウンスク
演出:イ・ビョンホン、アン・ギルホ