『僕達はまだその星の校則を知らない』はなぜ視聴者に愛されたのか? 3つの観点から考察

 9月22日に最終回を迎える『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系/以下『ぼくほし』)。放送のたびにSNS上で熱い議論を巻き起こしてきた『ぼくほし』は、なぜここまで視聴者に愛されてきたのか。その理由を3つの観点から考察していきたいと思う。

 まずひとつ目は、“スクールロイヤー”を主人公に据えた点だろう。従来の教育ドラマといえば、教師や生徒の視点が中心だったが、本作は弁護士の健治(磯村勇斗)が高校に派遣されるところから物語が始まる。これまでになかった切り口が新鮮だった。恥ずかしながら、わたしは『ぼくほし』を観るまでスクールロイヤーという職業があることを知らなかったのだが、ドラマを通してその存在を知り、実際にどんな業務を行っているのかを垣間見れたのが、大きな収穫だった。また、不登校経験がある健治が、スクールロイヤーという立場を通して学校と向き合い、“嫌い”を“好き”に変えていく過程を描いているところも良い。嫌な思い出というのは、塗り潰すものではない。新しく素敵な思い出を作っていく過程で、いつの間にか塗り替えられているものなのだと思う。その過程にはもちろん困難はつきものだが、健治が少しずつ歩みを進めていく姿が、視聴者に大きな勇気を与えていた。

 ふたつ目は、個性豊かなキャラクターたち。こういったドラマは、“いそうでいない人”を描いているものが多いが、本作の場合は“いなさそうでいる人”を丁寧にすくい取っていた。臆病で孤独を愛しているように見えるけれど、心の底では他者と心を通わせたいと願っている健治や、宮沢賢治を崇拝しており、マイワールドを持っている珠々(堀田真由)。生活指導の山田先生(平岩紙)も、最初はよく分からない嫌なやつだと思っていたが、回を重ねるごとに「彼女の気持ちも分からなくはないよなぁ……」と共感できるように。まったく違う性格に見えても、どこか自分のなかにある気持ちを代弁してくれるようなキャラクターばかりだから、視聴者は共感しながら物語に入り込むことができたのだと思う。個人的には、健治と珠々の“文学的な恋愛”が好きすぎるので、最終回でも2人の瑞々しいやり取りが見られることを期待している。

 最後は、『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)ばりの“大どんでん返し”があること。とくに印象的だったのは、2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」を取り上げた第2話だ。この法律では、“被害者が心身の苦痛を感じたらいじめ”と定義されるため、「これまで泣き寝入りするしかなかった人々が、やっと守られるようになる」と期待した人も多いだろう。しかし、ここに“法律の穴”があった。それは、失恋や恋のもつれといった日常的な人間関係のトラブルでさえ、被害者の感じ方ひとつで“いじめ”とみなされてしまう可能性があるということだ。実際に第2話では、彼女にフラれた藤村(日向亘)が、「これは、いじめだ!」と訴え、大騒動に。曖昧な基準のおかげで救われる人がいるのも事実だが、「どこまでがいじめか?」という線引きの難しさが、現場の混乱を生むこともある。

 そのほかにも、ジェンダーレス制服を起用しているのに、男子がスカートを着用することは許されない、親が子どもの将来を思って与える教育が、度を超えると“教育虐待”になってしまう……など、『ぼくほし』は、毎話のように社会が抱える矛盾を突きつけてきた。観るたびに視点がぐるりと変わり、「正しさとは何か?」を考えさせられる。まるで、体験型アトラクションに参加しているような気持ちになる稀有な作品だった。最終回では、どんな“ラストの一撃”を仕掛けてくるのか。このドラマが最後に示す答えを、心して見届けたい。

僕達はまだその星の校則を知らない

何事にも臆病で不器用な主人公が、共学化で揺れる私立高校にスクールロイヤー(学校弁護士)として派遣されることになり、法律や校則では簡単に解決できない若者たちの青春に、必死に向き合っていく学園ヒューマンドラマ。

■放送情報
『僕達はまだその星の校則を知らない』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子、日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥、淵上泰史、許豊凡(INI)、坂井真紀、尾美としのり、木野花、光石研、稲垣吾郎
脚本:大森美香
音楽:Benjamin Bedoussac
主題歌:ヨルシカ「修羅」(Polydor Records)
監督:山口健人、高橋名月、稲留武
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
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