TVアニメ『神椿市建設中。』V.W.Pが結実した第10話 メディアミックスの真価を示す神回に
「V.W.P」の想いが結実した第10話
前述した通り、音楽が大きな魅力である本作。しかし、その本質はただの「音楽アニメ」の枠に収まらない。第10話から始まる展開は、その事実をまざまざと突きつけてくる。
冒頭で突如切り替わるのは、アニメーションではなくリアルな映像。スクランブル交差点を行き交う人々、スマホから音楽を聴く、いわば私たち自身の姿だ。作中で繰り返し語られてきた「高次元の存在」という言葉が、ここで観客自身と重なり合う瞬間の衝撃は圧倒的だ。
そして第10話は、本作の真価が炸裂する“神回”と言っていいだろう。作中で使用されているライブシーンは2024年「KAMITSUBAKI WARS 2024 神椿横浜戦線 IN パシフィコ横浜」の実際のライブ映像であり、そのDAY-1に開催された「KAMITSUBAKI FES ’24 THE DAY THE EARTH STOOD STILL」のステージそのものだ。当時の生MCをそのまま使用することで、V.W.Pの歌声は、キャラクターを生かす“声(魔法)”であると同時に、現実のアーティストの“身体”でもあり、そのライブの場所に立つ「観測者」(ファン)と仮想と現実の壁を突き破って一つの物語の共創を表している。その二重性を、本作はアニメーションという「世界」を使ったメタ的な演出で鮮やかに可視化してみせた。歌が虚構を動かし、同時に現実を震わせる。その体験こそ、『神椿市建設中。』第10話を“神回”たらしめる最大の理由である。
TVアニメ『神椿市建設中。』はメディアミックスの最前線へ
本作が示したのは、ただ物語を消費する従来のアニメ体験ではなく、現実の活動と影響し合いながら更新されていく“循環型の表現”である。KAMITSUBAKI STUDIOはこれまで、音楽、映像、ゲーム、書籍といった多様なメディアを横断し、ファンが「観測者」として物語に関わる仕組みを築いてきた。そうした背景を知るファンにとっては、その積み重ねの延長線上に本作を位置づけられるだろう。
そして、筆者のようにアニメから入った初見の視聴者であっても、“循環”の一端を実際に体験できる点は、この作品ならではだ。
冒頭でも触れた通り、メディアミックスにおける映像化は、既存の世界観を知らない観客に向けた入り口として機能するにとどまることが多い。だが本作では、音楽やV.W.Pのライブといった現実での活動そのものがアニメの構造に組み込まれている。そのため、初めて触れる観客であっても、作品世界と現実の活動が交差する循環の中へ自然と巻き込まれていくのだ。
音楽の完成度、キャラクターの魅力……そうした一つひとつのクオリティの積み重ねは言うまでもない。だが本作の真価は、それを超えて「まだ見たことがないエンターテインメントの姿」を提示していることにある。
アニメが好きな人はもちろんだが、新しい刺激を求める人、これまでにないエンタメに出会いたい人にこそ、本作を勧めたい。TVアニメ『神椿市建設中。』は、きっと強烈な驚きを残すはずだ。
■放送情報
TVアニメ『神椿市建設中。』
TBS系28局にて、毎週木曜23:56〜全国同時放送
各配信プラットフォームにて、毎週木曜24:30~順次配信
原作・企画プロデュース:KAMITSUBAKI STUDIO/PIEDPIPER
世界観設定・監修・原作シナリオ:月島総記
原作企画:針谷建ニ郎(THINKR)、秋山広行(THINKR)
監督・シリーズ構成・音響監督:柿本広大
キャラクターデザイン:PALOW.
アニメーション制作:SMDE
製作:SINKA ANIMATION PROJECT
キャスト:花譜(森先化歩役)、理芽(谷置狸眼役)、春猿火(朝主派流役)、ヰ世界情緒(夜河世界役)、幸祜(輪廻此処役)、佐倉綾音(らぷらす役)、富田美憂(はすたー役)、阿座上洋平(あぐに役)、梅田修一朗(あねもす役)、藤堂真衣(くーげる役)、伊藤静(復興課長役)、緑川光(まくすうぇる役)
©KAMITSUBAKI STUDIO/SINKA ANIMATION PROJECT
公式サイト:https://kamitsubaki-anime.jp/
公式X(旧Twitter):https://x.com/anm_kamitsubaki